用語辞典

あ行

アカウンタビリティ

一般には「責務」や「応責性」と訳されるが、社会福祉の分野では「説明責任」のことを意味することが通常である。社会福祉サービスが措置から契約に移行する中で、このアカウンタビリティは一層重要性を増してきた。従来の措置の時代においては、利用者がサービス事業者を自己選択することがなかったため、利用者に対する説明責任はほとんど存在しなかった。しかしながら、介護保険や支援費制度のもとでは、利用者に対する説明責任が不可欠になってきた。

サービス事業者は、利用申請者に対しサービス内容などについて説明する責任を有することになる。その説明の結果として、サービス利用の決定がなされ、サービス利用契約がサービス事業者と利用者の間で締結されることになる。

措置の時代においては、サービス事業者は行政からは受け身的に監査を受けるのみであった。契約の時代においては、行政監査に加えて、財源に責任をもつ行政機関や、事業者の指定をおこなった行政機関に対して、事業内容について説明する責任をもつことになる。同時に、第三者評価者に対しても、サービス内容についての説明責任が伴うことになる。

「大阪の社会福祉」平成16年6月号より

か行

介護サービス情報の公表

従来の措置制度においては、福祉サービスは行政が利用決定をおこなっていたが、介護保険制度では、サービスを利用するにあたり、利用者が自己選択できることになっている。そのためには、個々の事業者のサービスについての内容や質に関する情報が広く公表されておりそれをもとに利用者が事業者を選べることが必要である。しかしながら、今までそうした仕組みがなかった。

そのため、「改正介護保険法」で介護サービス情報の公表が義務付けられ、平成18年度より、介護サービス情報の公表が実施されることになった。これは、介護保険制度の在宅および施設のすべての事業者が自らの介護サービスの内容を公表することが義務付けられた。具体的には、事業者自ら記入する基本情報項目と、調査員が事業所を訪問して調査する調査情報項目に分かれており、両者の項目についての結果をインターネットで公表することになる。この調査は一年に1回実施され、一年ごとに情報が更新されることになる。調査は2人の調査員で実施され、サービス事業者はその経費を負担することになっている。 介護サービス情報の公表により、利用者のサービス選択に役立つだけでなく、事業者間での競争を生み出し、サービス水準が高くなることが想定されている。

 ただし、調査員は事業者が実施している具体的なサービス内容を調査するものであり、サービスの質まで評価し、公表するものではない。そのため、部外者が調査するものであるが、質の評価は実施されないため、第三者評価や外部評価には至っていない。

「大阪の社会福祉」平成17年12月号より

介護の日

2008年7月、厚生労働省は11月11日を「介護の日」と定めた。これは、国民からの意見募集の結果、「いい日、いい日、毎日、あったか介護ありがとう」を念頭に、「いい日、いい日」にかけて覚えやすく、親しみやすい語呂合わせにより、設定されたもの。

 今回は3度目の介護の日であるが、介護に対する理解を深め、介護従事者や介護サービス利用者、介護家族を支援するとともに、高齢者や障がい者に対する介護について、国民への啓発を重点的に実施するための日とした。

 介護の日を中心に11月4日から11月17日までは「福祉人材確保重点実施期間」とし、この期間に関係機関が連携し、福祉・介護サービスの意義の理解を深めるための普及啓発および福祉人材の確保・定着を促進する取り組みに努めることになっている。

 介護の日には、東京でイベントがおこなわれるほか、各都道府県レベルでも介護体験や講演会やシンポジウムなどが実施される。

 こうした介護の日が制定された背景には、介護職員の離職率が高く、また、募集しても集まりにくいという実態がある。

 その理由には、国民の多くに介護職を3K(きつい、きたない、給料が安い)といった意識があり、介護の日はこうした意識を払拭し、介護の意義を見出していくことが大きな目的である。

「大阪の社会福祉」平成22年11月号より

介護予防

 介護保険制度は5年に1度見直しを図っていくことになっており、今回の見直しの中で、予防重視のシステムに転換を図っていくことになった。自立の高齢者が要支援や要介護にならないよう予防し、要支援や要介護1の者が要介護2以上に悪化しないよう予防することにある。そのため、要支援や要介護1の内で、閉じこもりなどで徐々に心身機能が低下をきたしている者については、従来の介護給付サービスから予防給付サービスに移行し、介護予防マネジメントを受けることになる。この予防給付サービスには、「筋力向上」「栄養改善」「口腔機能向上」が新たなサービスメニューに組み込まれることになる。また、自立の者に対しても、介護保険財源の3%以内を活用し、地域支援事業と呼ばれる介護予防サービスを提供していくことになる。

こうした介護予防については、介護保険の財源が急増しており、特に要支援や要介護1の者の増加が大きいことから、介護保険サービスを利用しないですむような水際作戦、また要支援や要介護1の者が悪化することに対しても水際作戦を実施することにある。

結果としては、60年後の2065年には、今まで通りであれば、要支援・要介護1が320万人、要介護2から要介護5までが320万人、総計640万人であるが、介護予防の効果として、それぞれ310万人、290万人、総計600万人とし、要支援・要介護者を40万人減らすことを計画している。

「大阪の社会福祉」平成17年5月号より

介護療養型医療施設

介護療養型医療施設は介護保険施設のひとつ。

 施設サービス計画に基づき、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護や機能訓練、その他必要な医療をおこなうことを目的としている。一般病院などでの急性期の治療は一段落しており、病状が安定期にあるが、もうしばらく病院での療養が必要な医療依存度の高い要介護者が入院する施設である。

 歴史的には、1984年に老人性慢性疾患の患者を入院させる病棟として医療保険制度に導入された「特例許可老人病棟」が出発点であり、1993年の医療法改正で長期療養患者が入院する病床として、療養環境に配慮した「療養型病床群」となった。

 さらに、介護保険制度で、医療保険適用と介護保険適用の2種類に分かれ、介護保険に介護療養型医療施設が位置づけられた。一般病院から介護療養型医療施設に転換したものが大多数であり、外見上は病院とさほど変わった印象はなく、外来もおこなうために、病院との区別がわかりづらい側面がある。

 2006年度の医療制度改革関連法により、介護療養型医療施設は廃止され、老人保健施設やケアハウスなどに移行することになっていたが、現在見直しが凍結になっている。(白)

「大阪の社会福祉」平成22年6月号より

回想法

回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって提唱された高齢者に対する心理療法である。高齢者の回想は現実からの逃避として否定的に捉えられがちであったが、バトラーは、高齢者の回想は、死が近づくことにより自然に生じる心理的過程であり、過去の未解決の課題をとらえ直す積極的な役割があるとした。この回想法は、高齢者の内でも特に認知症者に対して積極的に実施されている。

 回想法は、治療者と高齢者が一対一の個人回想法と、6~8人程度を対象とするグループ回想法に分けられる。

 個人回想法には、あらかじめ曜日や時間を決めた面接による構造化された方法と、日常生活におけるさまざまな機会をとらえて、さりげなく高齢者の思い出にふれる方法がある。回想の方法としては、人生の発達段階や歴史上の出来事の時系列的な側面でのキーワードを参考に話してもらい、治療側はこれをできる限り尊重して傾聴することにある。

 回想法の効果としては、高齢者が人生を振り返り、過去を肯定的にとらえ直すことで、自尊意識を回復させ、不安感の軽減、意欲やQOLの向上などに役立つとされている。

「大阪の社会福祉」平成19年11月号より

回転ドア現象

精神障害者が短期間の内に入退院を繰り返す現象を、回転ドアに例えて、「回転ドア現象」という。抗精神病薬の効果により退院率が増加してきたが、必ずしも精神病院入院患者数の減少が進んでいるわけではなく、回転ドア現象が増加しているとの指摘もある。

 日本の精神病院入院患者数は、先進諸外国に比べて格段に多く、約32万人である。そのため、厚生労働省は平成14年の障害者基本計画に基づく「重点施策実施5か年計画」で、10年間で条件が整えば退院可能とされる7万2000人の退院・社会復帰を目指すことにした。具体的に、15年度から「精神障害者退院促進事業」を実施し、早期退院を促進し、退院後などにおいて地域で安心して生活できる体制づくりを進めている。

 退院後の受け皿として、グループホーム、福祉ホーム、生活訓練施設を確保するとともに、在宅生活者についてはホームヘルプサービスなどの充実により支援をおこなっているが、今後の課題としては、退院患者への相談支援体制や地域の精神保健医療が充実し、それらが地域の中で相互に連携する体制づくりが不可欠である。

「大阪の社会福祉」平成18年12月号より

限界集落

集落の自治や冠婚葬祭、森林・生活道路の維持管理など住民同士の相互協力によって維持される集落機能が著しく低下した集落のこと。限界集落の定義は「65歳以上の高齢者が半数以上」であるほかに、小規模集落の場合は「働き盛りの壮年人口が4人未満」が要件となっている。限界の意味は、共同体としての維持が限界に近づいていることであり、過疎化がさらに進めば、最終的には無人化して消滅に至ることになる。この用語は長野大学の大野晃教授が平成3年に提唱したもの。存続集落が準限界集落へ、準限界集落が限界集落へ、さらに限界集落が消滅集落へ移行していくことになる。限界集落の捉え方は、町内会単位を目安としている場合が多い。

 国交省の調査では、限界集落は平成18年4月現在で7873集落ある。機能維持が困難となっている集落が2917集落あり、「10年以内に消滅の可能性のある集落」が422集落、「いずれ消滅」する可能性のある集落が2219集落、合わせて2641集落になると予測される。

 これらの集落再生には、公的な社会資本が欠落しており、行政による積極的な対応が必要である。同時に、自分たちの地域を自分たちの手で活性化していく、住民自らが地域づくりの実践主体になるような政策提起型の地域づくりが不可欠である。

「大阪の社会福祉」平成20年7月号より

高齢者虐待

在宅高齢者に対する虐待は、特に認知症や身体障害をもつ高齢者に対して介護者などの家族がおこなうものである。一方、施設や病院においても、要介護高齢者に対して職員が虐待する事実も時にはみられる。虐待の種類には、(1)身体的な虐待(殴る、蹴る、つねるなどの暴行や、本人の意に反してベッドなどに手足を縛り付けられること)(2)心理的な虐待(脅迫や侮辱などの言葉による暴力、恫喝、侮蔑)(3)経済的な虐待(年金・預金・財産を横取りされたりすること)(4)性的な虐待(夫婦間でのドメスティック・バイオレンスを含む性的な暴力)(5)介護や世話の放棄・放任(必要な介護の拒否、意図的な怠慢、必要な医療や食事、衣類や暖房器具の提供をしないなど、健康状態を損なう放置など)であるが、実際には性的な虐待は少ない。

 高齢者虐待が多くあるにも関わらず、発見されにくいが、その背景には、虐待する側もされる側もその事実を隠す傾向が強いことが原因となっている。虐待の発見には、本人の自然な行為に対する極度のおびえや、立ったり座ったりという日常的な生活動作での不具合、局部にかゆみのようなものを訴えるなどといったことに注意する必要がある。ホームヘルパーなど専門家だけでなく、近隣などの発見が期待される。虐待の原因としては、介護者の介護疲れ、虐待者の性格や人格、両者間での人間関係などが多い。

「大阪の社会福祉」平成17年11月号より

高齢者虐待防止法

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者の支援等に関する法律」略して「高齢者虐待防止法に関する法律」が4月から施行される。この法律は、高齢者を現に養護している者や介護保険事業で施設・在宅サービスに従事する者の虐待を予防することにある。

 自宅での養護者による虐待を予防するために、市町村は相談、指導、助言をおこない、虐待についての通報を受け付け、居室の確保など必要な措置をおこなう。また、市町村長は高齢者に重大な危険が生じるおそれがある場合には立入調査をおこない、必要があれば警察署長に援助を求めることができる。また、養護者の介護負担軽減のために、市町村は相談、指導、助言や、居室確保の措置をおこなう。また、不当なリフォームなどの高齢者被害についても、市町村は相談に応じ、関係機関を紹介する。 介護保険事業での施設・在宅サービスに従事する者の虐待防止については、事業者が苦情処理の体制を整え、虐待防止の措置を講ずる。 また、虐待があるとされる場合は、市町村に通報し、市町村は都道府県にそれを報告する。市町村長または都道府県知事は事業の適切な運営を図るよう、介護保険法や老人福祉法に基づく監督権限を行使することになる。

 なお、この法律で捉える虐待には、暴行などの身体的虐待、長時間の放置や著しい減食といった介護放棄、暴言などの心理的虐待、わいせつ行為といった性的虐待、不当な財産を得るといった経済的虐待の5つを規定している。

「大阪の社会福祉」平成18年4月号より

高齢者専門賃貸住宅

01年の「高齢者の居住の安定確保に関する法律」施行で、高齢者の居住を拒まない住宅として都道府県に登録しているものを高齢者円滑入居賃貸(高円賃)、05年の改正で、高円賃のうち専ら高齢者を賃借人とする賃貸住宅で、より詳細な情報を登録するものを高齢者専用賃貸(高専賃)とした。都道府県に登録し情報提供される高専賃の内容は、戸数、規模、構造または設備、敷金などの費用、前払家賃の概算額、共同利用の居間、食堂、台所、収納設備、浴室の有無、入浴、排泄、食事などの介護の有無など。高専賃は一般の賃貸住宅と変わらないものもあり、バリアフリー化や緊急通報対応、介護などのサービスが義務づけられておらず、多様である。なお、食事や介護を提供し、厚労省が定めた基準を満たし、それを都道府県に届けたものを適合高齢者専用賃貸住宅という。

 昨年5月、1戸あたりの床面積が25㎡以上となるほか、各戸に台所、水洗便所、収納設備、洗面設備および浴室の設置の基準を満たす住宅のみが高専賃や高円賃として都道府県に登録できると改正され、今年5月19日から実施される。また都道府県の指導監督も強化される。改正の背景には、生活支援サービスが受けられる住宅へのニーズ増大、高齢者が安心して居住できる一定水準の住宅の供給が求められていることがある。(白)

「大阪の社会福祉」平成22年5月号より

子ども・子育て応援プラン

このプランは、2004年6月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」の効果的な推進を図るために、重点施策の具体的実施計画として作成されたもので、「新新エンゼルプラン」とも呼ぶ。このプランでは、「子どもが健康に育つ社会」や「子どもを生み、育てることに喜びを感じることのできる社会」への転換を図るため、概ね10年後を展望した「目指すべき社会の姿」を掲げ、5年間で実施する重点施策を示している。

 具体的には、少子化社会対策大綱で掲げられた(1)若者の自立とたくましい子どもの育ち、(2)仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し、(3)生命の大切さ、家庭の役割等についての理解、(4)子育ての新たな支え合いと連携、の重要課題について具体的な施策内容と目標を示した。たとえば、(1)については若年者試用雇用の積極的活用、(2)については、個々人の生活などに配慮した労働時間の設定改善に向けた労使の自主的取り組みの推進、(3)については、保育所、児童館、保健センターなどで中・高校生が乳幼児とふれあう機会の提供、(4)については、地域の子育て支援の拠点づくり、児童虐待防止ネットワークの設置などを、具体的な数値で目標を示している。

 このプランは、従来の保育事業中心の計画から、若者の自立・教育・働き方の見直しを含めた幅広いものとなり、企業や地域の取り組みを重視している。また、個別の数値目標を掲げたことも特徴である。

「大阪の社会福祉」平成17年4月号より

子ども手当

「子ども手当」は民主党の総選挙でのマニフェストで謳われた、少子化対策の一環。子ども一人につき、生まれてから中学まで、所得の制限なく月2万6千円支給するもので、2010年度は、半額の1万3千円支給する。

 現実にこれを実施するため、児童手当を存続させ、支給額の上乗せ部分と対象が広がった部分を国の財源で新たに補うことになった。児童手当は、養育する親に支給されるものであり、所得制限があり、小学校までの子どもに月額5千円(3歳未満と第3子以降は1万円)で、国、都道府県、市町村、企業が負担してきた。そのため、2010年度は実態として公約を果たしたが、子どもは社会の宝という考えから、国の財源で対応するという理念は曖昧になっている。

 子ども手当の創設はフランスから学んだとされるが、フランスでは所得制限がなく、20歳まで支給される。第2子に対して、毎月約1万6千円を支給され、第3子からは約2万円が支給される。また、子どもが11歳以上になると加算されることになる。

 フランスでは出生率が上がっているが、子ども手当以外にもさまざまな少子化対策が進められており、日本でもそうした多様な少子化対策が求められる。

「大阪の社会福祉」平成22年4月号より

コンピテンシー

コンピテンシーとは、仕事や役割について効果的で優れた成果を発揮する個人の行動特性のこと。個々の職務で必要とされる具体的な知識や技能ではなく、実際の仕事の中で業績を上げるために、知識や技能をどのように活かしているか、どのように不足を補っているか、新たに習得しているかといった能力のことである。

 この用語は、1970年代にアメリカのマクレランド教授が「高い業績を残すことのできる人(ハイパーフォーマー)には共通した行動特性がある」ことを明らかにしたことから、研究が進められてきた。現在では、ハイパーフォーマーのコンピテンシーをパターン化し、コンピテンシー・モデルを作り、人材を養成する企業が増えてきている。

 社会福祉領域でも、ソーシャルワーカーや介護職の養成において、単なる知識や技能について教育するだけでなく、コンピテンシー能力を高めるための育成・研修が求められている。そのため、大学教育では、実習や演習の科目について、コンピテンシー評価基準を開発し、活用することが進められている。また、職場内・職場外の研修では、職員のコンピテンシーが高まるべくキャリアアップを目指す研修システムの開発が模索されている。

「大阪の社会福祉」平成17年6月号より

さ行

サービス管理責任者

障害者自立支援法により、障がい者施設の人員配置基準では、事業所ごとに施設管理責任者、サービス管理責任者、サービス提供職員を配置することに改められた。

 サービス管理責任者の業務内容は、個々の利用者について初期状態の把握(アセスメント)や個別支援計画の作成、定期的な評価(モニタリング)などの一連のサービス提供プロセス全般に関する責任を担うことであり、障がい者施設におけるサービスの質の向上を図ることを目的にしている。

 サービス管理責任者は利用者へのサービス提供過程について他のサービス提供職員に対する技術的な助言や指導などの責務を担い、サービス提供職員に対してサービス内容の管理について指示・指導をおこなう。一方、施設管理責任者は、全職員および業務の一元的管理をして、規定を遵守させるための指揮命令をおこなうことで、両者は役割分担している。

 サービス管理責任者になるには、障がい者の保健・医療・福祉・就労・教育の分野で直接支援や相談支援などの業務に3~10年の実務経験があり、「サービス管理責任者研修」および「相談支援従事者研修」の一部のカリキュラム(講義部分のみ)を受講・修了することが要件。

「大阪の社会福祉」平成21年7月号より

サービス提供責任者

サービス提供責任者は介護保険制度の訪問介護事業者が配置しなければならない職種。月間の延べサービス提供時間が概ね450時間以上ごとに1人、または訪問介護員10人ごとに1人のいずれかの基準で配置しなければならないことになっている。

 サービス提供責任者の業務は、訪問介護計画の作成、利用者の状態・意向の把握、ケアマネジャーとの連携、ヘルパーに具体的な援助目標・内容を指示、ヘルパーの業務状況の把握、ヘルパーに対する指導などをおこなっている。ホームヘルプサービスの要(かなめ)というべき重要な役割を担っている。サービス提供責任者は訪問介護事業者の管理者との兼務が認められている。

 サービス提供責任者になる要件としては、①介護福祉士、②訪問介護員養成研修1級課程修了者(ヘルパー1級)、③訪問介護員養成研修2級課程修了者(ヘルパー2級)で、実務経験が3年(540日)以上の者、④保健師、⑤看護師、⑥准看護師となっている。このサービス提供責任者は今まではすべて常勤専従と義務づけられていたが、平成21年度からの改正で、一部非常勤での配置が認められることになった。

「大阪の社会福祉」平成21年6月号より

在宅療養支援診療所

平成18年の医療法改正で、増大する医療費の抑制策として「在宅療養支援診療所」制度が新設された。入院治療の必要ない者については、病院での治療から、在宅医療を促進することを目的として、自宅でのターミナルケア(終末期ケア)や慢性疾患の療養などについて、在宅療養支援診療所は24時間体制で往診や訪問看護を実施する診療所のことである。全国で一万カ所設置することになっている。

 在宅療養支援診療所になる要件としては、24時間連絡を受ける医師または看護職員を配置し、往診が可能な体制を確保し、24時間訪問看護の提供体制を確保し、これらについて患者や家族に文書で伝えているなどの要件を充足している診療所をいう。さらには、在宅療養患者の緊急入院を他の医療機関が受け入れる体制を確保していることや、介護保険制度での介護支援専門員(ケアマネジャー)などとの連携も要件となっている。これらを満たせば、社会保険事務局に届け出をし、支援診療所と認められる。

 一般に、24時間開設していることから、コンビニ診療所と呼ばれている。こうした診療所を増やしていくために、在宅療養診療所が実施する在宅医療に対する診療報酬を優遇し、昨年四月の診療報酬改定で手厚い報酬がつけられた。

「大阪の社会福祉」平成20年10月号より

社会福祉主事

 都道府県や市の福祉事務所で仕事をする際の任用資格である。

 生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法に定める援護、育成、更生の措置に関する事務をおこなうことになっている。

 この資格は、主として、資格取得のための研修を受講することで得る場合と、大学卒業の場合には、社会福祉に関する3科目以上の科目を履修していた場合に得られる。後者の資格者を「3科目主事」と揶揄されることがある。その後、昭和62年に社会福祉士制度が作られ、社会福祉士である者も社会福祉主事の任用資格が得られることになった。

 社会福祉主事の制度は、昭和26年に作られたものであり、その当時の福祉事務所職員の専門性を確保するためのものであった。

 その後、この制度は、社会福祉施設での生活指導員などの資格にも援用されるようになっている。

 現実の福祉事務所では、ほとんど社会福祉専門職としての国家資格である社会福祉士が雇用されていない。

 利用者の自立を支援したり、多くのサービス利用が措置から契約に移行する中で、職員の専門性を高めるために、社会福祉主事から社会福祉士に移行させていくことが課題となっている。

「大阪の社会福祉」平成20年11月号より

社会復帰調整官

社会復帰調整官は、平成15年に創設された「心神喪失者等医療観察法」第20条に規定されており、各都道府県にある保護観察所に配置されている国家公務員である。

 心神喪失状態で他人に害を与えた精神障害者は刑事責任能力がないとされ、従来は不起訴・無罪処分とされていたが、「心神喪失者等医療観察法」により、犯罪の前提となった精神障害を改善し、再び同様の犯罪を繰り返すことなく社会復帰するために、必要な医療を受けてもらうこととなった。

 退院の時期や治療の完了については裁判官と精神科医が判断し、退院後のケア・観察にあたるのが社会復帰調整官である。

 社会復帰調整官は対象者と面接を通じて相談や助言をおこなったり、関係する人たちと相談しながら、対象者が地域で無事に生活していけるよう見守っていくソーシャルワーカーである。精神科医とも連携し、退院後も必要に応じて再入院を命じることができる。

 社会復帰調整官になる要件としては、精神保健福祉士の資格を有するか、精神障害者の保健および福祉に関する高い専門的知識を有し、かつ、社会福祉士、保健師、看護師、作業療法士もしくは臨床心理士の資格を有することとなっている。

「大阪の社会福祉」平成22年2月号より

社会保障カード

年金の記録管理のずさんさが明るみになり、支給漏れの恐れも大きい。今後の年金記録に対する信頼を回復し、新たな年金記録管理体制を確立するために、昨年7月に、政府は、平成23年度をめどに「社会保障カード」(仮称)の導入を構想している。

 このカードは、年金手帳だけでなく、健康保険証や介護保険証を兼ね備えたものとすることで、統一的なデータ管理をおこなうことを目的にしている。さらには、年金記録の通知や特定健康診査の結果の確認などに使うこととなっている。将来は、雇用保険など他の社会保障分野も対象にするなどとしている。そのため、一人一枚とし、個人情報保護の観点から、記載内容を他の者からガードするものとして、セキュリテイを確保することになっている。ただ、各制度の個人情報を統一する「社会保障番号」の導入については、今後の検討課題としている。

 このカードについては、担当職員によるのぞき見や病歴などの情報漏れのリスクもあり、医療・介護も含めた一元管理について賛否両論がある。さらには、それが民間保険に加入する際に、提示することが条件になる恐れもある。国民の利便性を最重視したシステムづくりはもとより、情報管理を最大限に高めるよう、慎重な検討を必要としている。

「大阪の社会福祉」平成20年2月号より

社会リハビリテーション

1968年に世界保健機関(WHO)が定義付けたリハビリテーションでは、「医学的リハビリテーション」、「職業リハビリテーション」、「教育リハビリテーション」、「社会リハビリテーション」の4分野に分かれている。

 社会リハビリテーションとは、障がいのある者が社会生活力を高めることを目的としたプロセスである。この社会生活力(ソーシャル ファンクショニング アビリティ)とは、障がいのある者が自らの障がいについて理解し、活用可能な社会資源を自ら利用することで積極的に社会参加し、自らの人生を自立的・主体的に自己選択して生きていく力のことである。こうした力を獲得するよう支援することが、社会リハビリテーションの特徴である。

 そのため、社会リハビリテーションでは、社会生活力を高めるプログラムが開発され、それに基づいて支援されることになる。このプログラムは、障がい者の社会参加を促進し、エンパワメントを支援することで、利用者の生活の質(QOL)を高めることである。そのため、スタッフと障がい者がパートナーシップでもって実施することになり、医学モデルではなく、生活モデルによるアプローチであるという特徴がある。

「大阪の社会福祉」平成20年6月号より

(社)日本社会福祉士養成校協会

平成13年に創設され、社会福祉の担い手となる者を確保し、その者の資質の向上を図ることを社会的使命として、養成校での教育内容を充実させていくことと、社会福祉に関する研究開発や知識の普及に努めることで、国民福祉の増進に寄与することを目的に組織された。現在、4年制大学、一般養成施設、短期大学、専修学校、大学院合わせて、約270校が加盟している。

 社会福祉士及び介護福祉士法改正により、社会福祉士養成校では実践能力のある社会福祉士となるよう、カリキュラム時間数を1050時間から1200時間に増やし、カリキュラムも実践的なものに変更されることになった。さらに、実習や演習については、具体的な内容が厚生労働省から提示され、大学においてもこの内容のもとで演習・実習をおこなうことになった。さらに、実習や演習の担当教員の要件として、一定の基準が設けられた。

 この際に、日本社会福祉士養成校協会は、養成校と厚生労働省とのパイプ役となり、要件を満たしていない教員に対しては資格取得講習会を実施することになっている。同時に、社会福祉士制度の改正に基づき、職域の拡大や給与などの待遇の改善、施設長などへのキャリアパスの創設をめざして活動している。

「大阪の社会福祉」平成20年12月号より

主任介護支援専門員

 主任介護支援専門員は、介護支援専門員のスーパービジョン能力を高めることを目的とする主任介護支援専門員研修を受講し、修了するとなれる。

 この研修の対象は、以下の①~③のいずれかの条件を満たし、専門研修課程ⅠとⅡまたは更新研修を修了している者である。

①専任の介護支援専門員として通算して5年以上従事した者、 ②ケアマネジメントリーダー養成研修修了者か、日本ケアマネジメント学会の認定ケアマネジャーであり、専任期間が3年以上の者、③地域包括支援センターに配置されている者。研修時間は64時間(講義31 時間、演習33時間)であり、都道府県が上乗せ要件を設定することも可能になっている。

 地域包括支援センターには保健師、社会福祉士と並んで、主任介護支援専門員が配置されることになっている。また、居宅介護支援事業者が介護報酬を5%から10%アップする特定事業者加算を取得する要件の1つに主任介護支援専門員の配置が義務づけられている。こうしたことから、主任介護支援専門員研修会への受講者が増えている。

 主任介護支援専門員には、居宅介護支援事業者の職場内や生活圏域を中心とする地域社会の中で、介護支援専門員へのスーパービジョン活動が期待されている。     

「大阪の社会福祉」平成23年4月号より

障害者自立支援法

障害者自立支援法は、障害者の地域生活と就労を促進することで、自立の支援を目的にしている。

 具体的には、(1)サービス提供主体を市町村に一元化し、身体障害者、知的障害者、精神障害者にかかわらず、共通の福祉サービスを提供する、(2)働く意欲と能力のある障害者が企業などで働けるよう支援する、(3)地域の限られた社会資源を活用できるよう規制を緩和する、(4)支援の必要度合いに応じたサービス利用制度にし、利用に関する手続きや基準を透明化・明確化する、(5)食費などの実費負担や利用したサービスの量などや所得に応じた公平な自己負担を利用者に求め、国は福祉サービスなどの費用を義務負担とする、とした。

 この法律では、身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児が給付対象となる。

 提供されるサービスは、従来の施設・在宅福祉サービスに加え、自立支援医療や自立訓練・就労移行支援などの訓練等給付費である。

 給付手続きについては、障害者や障害児の保護者が市町村などに申請し、市町村に設置される審査会の審査・判定に基づき、市町村から障害程度区分の認定と支給決定を受ける。 利用者がサービスを利用した場合、一割を自己負担するが、所得などに応じて負担に上限が設けられている。

 また、この法律では、地域生活支援事業として、市町村又は都道府県が相談支援、移動支援、日常生活用具、手話通訳などの派遣、地域活動支援などを実施し、同時に市町村と都道府県は障害福祉計画を策定することになっている。

「大阪の社会福祉」平成18年3月号より

小規模多機能型施設

昨年4月に改正された介護保険法で創設されたもので、「通い」を中心として、要介護者の様態や希望に応じて、随時「訪問」や「泊まり」を組み合わせてサービス提供することで、中重度となっても在宅での生活が継続できるように支援するもの。これは地域密着型サービスの一つで、市町村に許認可権があり、原則的に当該市町村住民でなければ利用できない。また、地域住民も参加して運営していくために、利用者や地域住民も参加する運営協議会を設置することになっている。

 一事業所当たりの登録者は25人程度、「通い」の上限は15人程度、「泊まり」については5~9人を上限として「通い」の利用者に限定されている。利用者は要介護者と要支援者であり、前者は小規模多機能型居宅介護、後者は介護予防小規模多機能型居宅介護という。人員配置については「通い」の利用者3人に対し職員1人、「訪問」に対応する職員1人、夜間については「泊まり」と訪問対応に2人(1人は宿直可)であり、介護支援専門員の配置が必要となっている。これが単体で設置されるだけでなく、認知症対応型共同生活介護、小規模な介護専用型の特定施設、小規模な介護老人福祉施設(サテライト特養)、有床診療所による介護療養型医療施設などの併設が想定されている。

「大阪の社会福祉」平成19年9月号より

少子化対策プラスワン

厚生労働省が2002年9月に「少子化対策プラスワン」を提案した。

 ここでは、少子化対策は、(1)男性を含めた働き方の見直し、(2)地域における子育て支援、(3)社会保障における次世代支援、(4)子どもの社会性の向上や自立の促進の4つの柱に沿って、社会全体が一体となって総合的に取り組んでいくことが重要だとしている。

 具体的には、以下のようなことが提案されている。経営者や職場の意識改革を推進し、短時間勤務や隔日勤務などの働き方の選択肢を広げる。育児休業取得率を男性10%、女性90%と目標値を設定し、企業が促進するための奨励をおこなう。週2~3日や午前や午後のみの保育事業や、保育ママ制度の弾力化や放課後児童クラブなどの充実を図る。地域における子育て支援サービスを推進し、子育て情報の発信などのネットワークづくりを導入する。子どもや子育て家庭に対して配慮した社会保障制度に改革していく。育英奨学金の充実や貸付制度による教育に伴う経済的負担の軽減をおこなう。

 こうした少子化対策を具体的に検討するために、厚生労働省は2003年10月に「少子化対策推進本部」を設置した。

「大阪の社会福祉」平成16年1月号より

ジェノグラム(genogram)

ジェノグラムは、マックゴールドリックとジャーソンにより開発されたもので、少なくとも三世代の家族メンバーについての情報を図表に表示したもので、「世代関係図」「家族関係図」とも呼ばれる。家族や親子関係などの情緒的結びつき、利用者に重要な影響をおよぼした交通事故や火災などといったライフイベントなどを知ることができ、利用者個人を含む家族そのものを理解することに役立つ。

 ジェノグラムは、核家族の家族を中心に拡大家族の構成員の属性(年齢、職業、住居、健康度など)、婚姻関係、親子関係などを図式化して作成していく。視覚的に分かりやすいように、文字は簡潔にするため、いくつかの記号がある。例えば、女性は○、男性は□、死亡は×、別居は/、離婚は//といった記号が使われる。

 これは、ソーシャルワークでのアセスメントのツール(道具)のひとつとして使われることが多く、情報収集をもとに、支援計画を作成するために活用されることになる。同時に、支援後に評価する際にも、支援前との比較でジェノグラムが活用される場合がある。他の活用法として、利用者本人にジェノグラムを作成してもらい、それを自ら理解していくことを支援していく療法として活用する場合もある。

「大阪の社会福祉」平成21年8月号より

住所地特例

 住所地特例は、介護保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度に設けられている。被保険者が住所地以外の市区町村に所在する施設に入所などをした場合、住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる特例のことである。これは、入所施設の所在する市町村が過度の財政負担を負うことのないようにするもの。

 介護保険制度では、被保険者が入所により住所地が異動しても保険者は変更されない。介護保険法第13条に住所地特例対象施設として、介護保険制度が始まった時は、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護型医療療養病床の介護保険施設だけであった。その後、特定施設や養護老人ホームも住所地特例施設に追加された。

 さらに、国民健康保険でも、居住していた市町村以外の介護老人福祉施設や児童福祉施設に入所した場合に、前住所の自治体が保険者になる。

 また、一般の医療機関に1年以上の長期入院することで、住所を医療機関に移す場合でも、移す前の市区町村が被保険者となる。これは後期高齢者医療制度についても該当し、福祉施設への入所や長期入院などにより他の都道府県に住所を移す場合でも、住所を移す前の都道府県後期高齢者医療広域連合が被保険者になる。

「大阪の社会福祉」平成21年2月号より

准介護福祉士

今回成立した「改正社会福祉士及び介護福祉士法」に、明記された新たな資格。

 今回の改正で、介護福祉士養成施設で必要な知識や技能を修得した者も国家試験を受験し、試験に合格しなければ、介護福祉士になれないことになった。それに伴い、この国家試験の受験資格を有しているが、介護福祉士の国家資格を得られなかった場合には、介護福祉士となるよう努めることを要件に、登録を受けて、准介護福祉士という名称で、介護をおこなうことができるようにした。

 このような制度ができた背景は、フィリピンとの間での経済連携協定において現行制度を前提にして、介護福祉士の日本での受け入れが盛り込まれていたためである。また、養成施設卒業者がすべて介護福祉士資格を取得できなくなることでの経過措置の側面も有している。

 これについては、介護の質を低下させ、介護の専門性を低めることになり、低賃金化を一層進めるおそれがあるといった批判的意見が強かった。そのため、改正された法律の附則で、公布後5年を目途として検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるとしている。

 そのため、准介護福祉士という新たな資格が実際に発生する時点で、再度検討されることになる。

「大阪の社会福祉」平成20年1月号より

ジョブ・カード

「職業能力形成システム」(通称「ジョブ・カード制度」)は、平成20年度から「成長力底上げ戦略」で示された「人材能力戦略」の一環として新規に打ち出された政策であり、誰でもどこでも職業能力形成に参加でき、自らの能力が発揮できる社会の実現をめざすものである。とりわけ、職業能力形成の機会に恵まれなかった求職者(若年者や子育て後の女性、母子家庭の母親など)に対して、「職業能力形成プログラム」により、企業現場・教育機関等で実践的な職業訓練を受け、修了証を得て、求職活動に活用することを目的としている。

 ジョブ・カードは「職業能力形成プログラム」の修了証のほか、職務経歴や教育訓練経歴、取得資格などの情報をまとめ、一冊のファイルにしたものである。これは、自らの職業能力・意識を整理できるキャリア形成支援ツールである。

 求職者が、ハローワークなどのキャリア・コンサルティング(本人の適性などに応じた職業能力開発や職業選択についての相談サービス)を通じ、職務経歴や教育訓練歴、取得資格などの情報をまとめてジョブ・カードに記載する。その結果、自らの職業能力を客観的かつ具体的に提示し、公的な証明書として就職活動に活用できるとともに、求人企業とのマッチングを促進することができる。

「大阪の社会福祉」平成21年3月号より

自立支援給付

自立支援給付は、障害者自立支援法に規定されており、障がい者および障がい児が、その有する能力を活用し、自立した日常生活を営むことができるよう提供される障がい福祉サービスのこと。この給付には、①介護給付、②訓練等給付、③サービス利用計画作成費の支給、④自立支援医療費の支給、⑤補装具費の支給、の5つがある。

 介護給付は、居宅介護、重度訪問介護、行動援護、療養支援、生活介護、児童デイサービス、短期入所、重度障害者等包括支援、共同生活介護、施設入所支援といった障がい福祉サービスに要する費用の給付。また訓練等給付は、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助といった障がい福祉サービスに要する費用の給付をいう。

 自立支援医療は、医療の種類ごとに市町村または都道府県の認定を受け、自立支援医療を受けるために必要な費用の9割を市町村が自立支援医療費として支給する制度。補装具の支給は、市区町村が心身の状況からみて補装具が必要であると認めた場合(一定以上の所得の者を除く)に、補装具の購入または修理に要する費用を市区町村が支給する制度。

 自立支援給付以外の障がい福祉サービスとしては、利用者からの相談に応じ、必要な情報の提供および助言などをおこない、障がい者などの権利の擁護のために必要な援助をおこなう事業、手話通訳者などの派遣、日常生活用具の給付または貸与、障がい者などの移動を支援する事業などである地域生活支援事業がある。  

「大阪の社会福祉」平成23年5月号より

自立支援プログラム

生活保護受給者が増加し多様化していることを受け、厚生労働省は被保護者の自立支援のために平成17年度から「自立支援プログラム」を導入した。このプログラムでは、被保護世帯をアセスメントし、自立支援の具体的内容や実施手順を内容とする世帯類型ごとの「個別支援プログラム」を定め、これに基づいて個々の被保護者に必要な支援をおこなう。

 福祉事務所は、被保護者の自立・就労支援のために活用できる多様な支援メニューを整備し、被保護者の実情に応じた支援メニューを選び、個々の自立計画を作成・実施する。被保護者はこの自立計画に基づいて自立・就労に向けた取り組みをおこなう。福祉事務所は、個々の被保護者の自立支援プログラムを定期的に評価し、必要に応じて支援メニューを見直す。被保護者の取り組みが不十分な場合には、最終的に保護費の減額や保護の停廃止も考慮される。

 就労経験の少ない若年者、社会的入院患者、多重債務者、ホームレス、高齢者といった対象者別の自立支援プログラムがある。

 実例として、ハローワークに配置される就労支援コーディネーターの活用、担当ケースワーカーなどによる継続的できめ細かい進路・就労相談、授産施設、小規模作業所、社会適応訓練事業の活用、地域貢献活動への参加促進などがある。

 このプログラムの特徴は、就労支援などに関する知識・経験を有する非常勤職員の活用、社会福祉法人や民間事業者などの協力、救護施設などの社会福祉施設との連携など、地域のさまざまな社会資源を活用することにある。

「大阪の社会福祉」平成18年5月号より

スクールソーシャルワーク

スクールソーシャルワークは、アメリカで20世紀初頭に誕生。学校をベースにしたソーシャルワークにより、子どもたちの生活をサポートする活動である。日本では、1980年代半ばに活動が始まり、2000年以降、香川県、大阪府、赤穂市などのいくつかの都道府県や市で実施されており、近年実施する自治体が急増している。1つの学校をベースに活動している場合と、都道府県や市町村に所属し、いくつかの学校に派遣されている場合とがある。

 スクールソーシャルワーカーは、子どもの人格を尊重することを基本にして、子どもの問題状況を改善するために、子どもを取り巻くさまざまな人々(家族・教師・友人など)や地域の環境にも注目し、その関係を調整することを中心的な活動としている。具体的には、小学校や中学校の子どもの不登校、虐待、家族関係などの問題に対して、教師と連携しながら、生活支援の視点で活動している。校内でのカンファレンスをもとに、教師や地域の医療機関、児童相談所、行政機関、警察、家族などがそれぞれの役割を果たすよう支援し、子どもの代弁をする機能を果たすことで、問題の解決を図っていく。

 スクールソーシャルワーカーなどを配置した場合、2007年度より文部科学省が補助金を出すようになった。今後の活動が期待されている。

「大阪の社会福祉」平成20年3月号より

ストレングス・モデル

ソーシャルワークやケアマネジメントにおいて、利用者や社会環境でのストレングス(強さ)を捉え、それを支援に活用していこうとする考え方で、1990年代以降、アメリカから広がってきた。

 従来のソーシャルワークやケアマネジメントでは、利用者や社会環境のマイナス面を捉え、その改善や緩和に焦点を当てて支援をしてきた。その結果、問題をもった者として利用者を捉えることになり、利用者に対する尊厳の保持が難しく、同時に、利用者と援助者間との対等な関係が難しいとする反省から生まれてきた。理論的には、ソーシャルワークでは「医学モデル」から「生活モデル」への転換を意味する。

 ストレングスとは、利用者のもっている意欲、能力、抱負、嗜好といったものである。家族や地域社会が有しているストレングスについても捉えることになる。こうしたストレングスをアセスメント情報として把握し、それらの情報を支援計画に活用することになる。この結果、利用者はエンパワメントと呼ばれる。新たに生じてきた問題を自分で解決していく力を獲得し、発揮できるようになるとされる。

「大阪の社会福祉」平成21年4月号より

スペシャルオリンピック

知的発達障害のある人の国際オリンピックのことで、1968年にシカゴで初めて開催され、当初はアメリカとカナダの2カ国のみの参加であったが、1988年に国際オリンピック委員会より「オリンピック」の名称の使用と活動が認められた。

 2003年にアイルランドのダブリンで第11回夏季世界大会が開かれ、今年の2月26日から長野県で第8回目の冬季世界大会が開催されることになっている。この大会には約3000人の選手団が参加し、その内で日本選手団は過去最高の150名になる予定である。

 1963年にケネディ大統領の妹ユーニス・ケネディ・シュライバーが自宅の庭を開放して「デイキャンプ」を始めたことに端を発して、発展してきた。知的発達障害者は参加することによって、目標と可能性に向かってベストを尽くす勇気を身につけ、身体的・知的・社会的・情緒的に成長することを、スペシャルオリンピックの目的にしている。同時に、一緒に参加する家族、コーチ、ボランティアは知的発達障害者への理解を深める機会にしていくことを狙いにしている。

「大阪の社会福祉」平成17年2月号より

セーフティ・ネット

「安全網」と訳されるが、語源はサーカスなどで落下防止のために張る網のことを指す語であったが、人々の社会的な安全を守る制度を意味するようになってきた。相対的に健康で文化的な生活水準を確保できる程度の水準の保障を社会が用意する働きのことをセーフティ・ネットと言い、経済的な危機に陥っても、最低限の安全を保障してくれる社会の制度や対策を意味している。

 セーフティ・ネットを広義に捉えると、死亡、病気、引退、失業などの事象を扱うことになり、広範囲の所得保障政策ないしは福祉政策全般を指すことになる。狭義に捉える場合には、低所得者への所得保障政策に限定している。

 広義のセーフティ・ネットの中心は、社会保障としての医療、年金、介護などといった社会保険制度、生活保護といった公的扶助制度、対人福祉サービス、公衆衛生などでもって構成されており、不測の事態に備えた諸制度全般を指すことになる。少子・高齢社会を迎え、このセーフティ・ネットが揺らぎだしており、万が一の場合に受け止めてくれるネットを再構築することが重要な課題となっている。

「大阪の社会福祉」平成16年8月号より

生活福祉資金貸付制度

低所得者世帯に生活費などを貸し付ける「生活福祉資金貸付制度」は、民生委員の世帯更生運動がきっかけで1955年にできた「世帯更生資金貸付制度」が前身。1990年に融資対象世帯の所得制限を緩和するなど、一部を改正した際に、現行の名称に変更。

 国と都道府県からの補助金を原資にしており、都道府県社協が原資をプールしている。融資希望者は市町村社協や民生委員を介して申請をおこなうことになっている。金利は修学や療養・介護などを目的とした場合は無利子である。低所得者世帯の生業を目的とする場合は、280万円が貸付限度額であり、据え置き期間は原則1年となっている。

 生活保護世帯が急増する一方で、生活福祉資金貸付制度の利用は低調であったことから、2009年10月に、以下の3点を改正。①10種類あった融資の種類を総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金に整理し、総合支援資金は失業や減収などにより生活困窮している人に対応、②連帯保証人を確保できない人にも、貸付できるようにしたこと、③原則年3%であった金利を、連帯保証人を確保した場合には無利子、それ以外でも1・5%に引き下げたこと、である。

 この改正により、生活福祉資金貸付制度がボーダーライン層のセーフティネットのひとつとなることが期待される。

「大阪の社会福祉」平成22年12月号より

世界アルツハイマーデー

1994年にイギリスのエジンバラ市で開催された国際アルツハイマー病協会の第10回国際会議で、9月21日を「世界アルツハイマーデー」と定めた。

 この日の設定は、「私たちは、このような患者と家族に対して、理解をもって生活の質の権利を擁護すべき支援をする」、「私たちは、アルツハイマー病および関連の諸疾患に関する世界的啓蒙の普及を図ると共に、地球規模での理解と把握につとめ、患者と家族への支援を推進するために努力し働きかける」という宣言のもとでなされた。

 この宣言には世界保健機関(WHO)の後援を受け、同協会の会長と議長が署名し、WHOの精神保健局員も署名に参加している。

 毎年、70以上の国と地域で、認知症の人を抱える家族団体などが、認知症に関する人々の理解を深めたり、認知症の人や介護者を支援する活動をおこなっている。

 日本でも、認知症の人と家族の会が中心になり、多くの地域で啓発活動をおこなっている。

 こうした活動の背景には、認知症に対する病気としての社会の認識が低く、専門医から治療を受けることが遅れがちであることがある。

「大阪の社会福祉」平成22年9月号より

ソーシャル・インクルージョン

EU諸国での近年社会福祉を進めていく上での基本理念であり、ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)と対をなす用語。

 社会的弱者と言われる少数者や貧困者・失業者を地域社会や制度から排除するのではなく、地域社会の構成員として包み込み、「共に生きる社会」を目指すことである。その実現に向けて、公的扶助だけでなく、職業訓練や就労機会の提供などが総合的に実施されることが必要になる。

 この考えはイギリスやフランスから日本に入ってきたものである。イギリスでは、移民などの一定の貧困地域を対象にして、経済生活の保障と同時に就労支援を実施している。フランスでは、参入最低限所得法により、社会から排除している移民などの失業者に最低限所得を保障しながら、社会的・職業的参入を図ることが実施されている。こうして、彼らをソーシャル・インクルージョンすることを目的にしている。

 日本では、この用語は平成12年12月に厚生省(当時)の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」が提出した報告書の中で始めて公的に示された。その後、生活保護受給者やホームレス対策などで、この理念が具体的に進められようとしている。

「大阪の社会福祉」平成17年9月号より

ソシオグラム(sociogram)

ソシオグラムはハートフォードが1971年に開発したもので、グループの成員間の関係を簡潔に記述した図式である。こうした図式は集団・組織を支援するソーシャルワークや集団療法で活用される。通常はソーシャルワーカーが観察に基づいてソシオグラムを記述するが、その際、集団内の個々の成員間だけでなく、ソーシャルワーカーも含めた関係を図示することになる。

 ここでは、図式を見やすくするため、簡略化される記号が使われる。例えば男は△、女は○、矢印も→と←→の両方があり、(+)が支援的な関係、(-)がストレスフルな関係を示している。実線が強い関係、波線が弱い関係を示す。これらの記号や線を使うことで、集団・組織内の関係が一見して捉えることができる。

 ソシオグラムは、アセスメント・ツールのひとつであり、集団・組織内の関係を把握するために使われる。これをもとに、集団・組織の課題を明らかにし、支援計画が作成される。支援実施の評価においても、集団・組織の変化を捉えるため、ソシオグラムが使われる場合がある。ソーシャルワーカーと集団・組織の成員がソシオグラムを共有した場合、成員に不安感や敵対感が生じる可能性があり、慎重な対応が求められる。

「大阪の社会福祉」平成21年9月号より

尊厳死

尊厳死とは、人間個人の人格や人間性の尊厳を保って死を迎える、または迎えさせること。安楽死は末期患者の意思のもと、医療行為でもって死なせることであり、尊厳死とは根本的に異なる。

 この考えは、延命治療により人間の尊厳を冒しかねない医療よりも、短くても生き生きとした生活を可能にする医療を求めるようになってきたことにある。

 日本にも、尊厳死協会が昭和51年に発足し、現在、会員は約10万6000人。 ただ、法的に尊厳死を認める法律はなく、法制化を求めて国に請願を提出している。 医療現場では、医師が延命治療を中止することと、医療行為で死なせる安楽死との境界が不明瞭のため、尊厳死について臨床上の基準がなく、混乱が生じているのが現実である。 海外では、尊厳死についての法制化は1976年にアメリカのカリフォルニア州が最初である。最近、オランダ、ベルギー、スイスでは、安楽死についても法的に認めるようになってきている。 尊厳死の問題はターミナル(終末期)ケアをいかに実施していくかにあり、本人の意向と家族や親族の思いを一致させることが不可欠である。尊厳死を可能にするためには医師のみならず、多くの専門職が関わるチーム医療が重要となる。

「大阪の社会福祉」平成16年12月号より

た行

第三者評価

サービス内容について、全く関係のない者が評価すること。福祉分野での第三者評価は、社会福祉施設、機関、団体に対して部外者が評価基準に基づいて評価することである。第三者評価の第一の目的は、評価した結果を開示することで、サービス利用者がサービス事業者を選択する際の情報を示すことにある。第二の目的は、自らのサービスの質を高めることにある。そのため第三者評価の前にサービス事業者自らが評価をおこなうことが多い。

 第三者評価の必要性が強調されるようになったのは、介護保険や支援費制度により利用者がサービス事業者を選択することになったことが大きい。

 現在、全国一律に第三者評価が実施されているのは、痴呆性高齢者共同生活介護(グループホーム)のみであるが、ここでは評価の結果が開示されている。また、多くの自治体で、社会福祉施設、介護保険での施設や居宅サービスについて第三者評価事業が実施されている。こうした評価が個々の事業者のサービスの質を高め、的確な評価結果を利用者に開示できるためには、適切な評価基準項目の選定、評価者の教育、自己評価や利用者評価との接合方法についての明確化が求められる。

「大阪の社会福祉」平成16年9月号より

地域ケア体制整備構想

地域ケア体制整備構想は、国民負担の効率化と医師・看護職員の効率的活用をもとに、高齢者の状態に即した適切な医療・介護サービスを提供するために、療養病床の再編成を目的にしている。それぞれの地域の状況に応じた対応が必要であり、同時に「医療計画」、「医療費適正化計画」、「介護保険事業支援計画」との関連性が求められるため、各都道府県が地域ケア体制整備構想を策定することになっている。

 療養病床の再編成については、既に医療制度改革法により、現在ある医療療養病床25万床、介護療養病床12万床を、2012年には、医療療養病床を15万床とし、新たな老人保健施設に15~17万床、特別養護老人ホーム・ケアハウス・高齢者住宅等に6~8万床に転用することとしていた。なお、介護保険施設である介護療養病床は廃止されることになり、介護保険施設は老人保健施設と介護老人福祉施設だけとなる。

 国の計画では医療療養病床は2012年までに6割を削減する方針であったが、各都道府県が「地域ケア体制整備構想」を作成した結果、約3割程度の削減に留まった。この構想の結果は、高齢者の医療ニーズに対して、どのように対応するべきかの課題を提示しており、同時に医療保険や介護保険の保険料にも影響を与えることになる。(白)

「大阪の社会福祉」平成21年1月号より

地域包括支援センター

介護保険制度改革で中心となる機関。介護保険財源を抑制するために、介護予防に焦点をあてることになり、自立高齢者に対しては、要介護や要支援者とならないよう介護予防をおこなうが、これを地域支援事業という。また、多くの要支援や要介護1の者に対しては要介護度の介護悪化を予防する新予防給付を実施することになる。これら地域支援事業と新予防給付は地域包括支援センターで実施されることになる。

 このセンターは市町村の生活圏に設置され、保健師等、社会福祉士等、主任ケアマネジャーの三専門職が配置され、新予防給付対象者のケアプラン作成、生活問題への支援、ケアマネジャーへの支援、地域の機関・団体との連携をおこなうことになっている。

 ここでは、予防給付サービスの提供ができないことになっており、中立公正なケアプランを作成することを目的にしている。そのため、市町村が直接実施したり、市町村が法人に委託することになる。また、本センターを運営するために、地域包括支援センター運営協議会が各市町村で作られることになっている。

 各市町村は平成18年度から地域包括支援センターを作っていくことになっているが、人材確保のために、2年間猶予が与えられている。

「大阪の社会福祉」平成17年7月号より

地域密着型サービス

昨年4月から施行されている改正介護保険法で、地域密着型サービスが創設された。このサービスには、①認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、②認知症対応型通所介護、③小規模多機能型居宅介護、④夜間対応型訪問介護、⑤小規模(定員30人未満)の介護老人福祉施設、⑥小規模(定員30人未満)で介護専用型の特定施設入所者生活介護の6つがある。地域密着型サービスの特徴としては、①サービス許認可は市町村がおこなうこと、②サービス利用はその市町村住民に限定されること、③市町村単位で適正なサービス基盤の整備をおこなうこと、④市町村の実情に応じた指定基準や介護報酬を設定できること、になっている。

 従前の施設サービスでは住み慣れた地域で生活したいとする高齢者のニーズに対応しないことや、今までの介護保険制度では市町村の役割が不明確であったという反省から、要介護者を住み慣れた地域での生活を支えるために、身近な生活圏域ごとにサービスの拠点をつくり、地域の実情に合わせて市町村の裁量で整備できるのが地域密着型サービスである。

「大阪の社会福祉」平成19年4月号より

特定高齢者

昨年4月の介護保険制度の改正で、介護保険サービスを利用する前の虚弱高齢者を対象に介護予防事業を実施するとした。

 この高齢者を介護保険制度の利用リスクが高いことから、ハイリスクポピュレーションということで、特定高齢者と呼んでいる。

 この特定高齢者は、25項目の基本チェックリストをもとに抽出され、介護予防ケアマネジメントをおこなうことになっている。そこでのケアプランの結果、特定高齢者は筋力トレーニング、口腔ケア教室、栄養改善教室などを活用することで、介護予防を図っていく。

 これは、新たに創設された地域包括支援センターが実施する業務の1つであり、高齢者の健康診査などを介して特定高齢者を見つけ出し、介護予防サービスに結び付けていくことになっている。

 高齢者の5%が特定高齢者に相当すると見込んでいるが、ほとんどの市町村では対象者を発見できない状況にある。

 そのため、厚生労働省は特定高齢者と判定されるために必要な該当項目数を減らすことで、5%の特定高齢者の確保を図り、介護予防を進めていきたいとしている。

「大阪の社会福祉」平成19年6月号より

特定疾患

昭和48年の難病対策要綱で、難病は「①原因不明、治療方針未確定であり、かつ、後遺症を残す恐れが少なくない疾病、②経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」と定義された。

 特定疾患は、これら難病のうち、原因不明で、治療方法が確立していないなど治療が極めて困難で、病状も慢性に経過し、後遺症を残し、社会復帰が極度に困難であり、医療費も高額で経済的な問題や介護などの負担の大きい疾病のこと。そのため、特定疾患は、難病対策推進のために調査研究の対象になっている疾患のこと。

 現在、特定疾患は123疾患あり、このうちの45疾患の医療費は公費負担助成の対象であり、保険診療での治療費の自己負担分の一部を国と都道府県が助成している。これは特定疾患治療研究事業と呼ばれ、「原因不明、治療方法未確立であり、かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病」に対するものである。昭和47年度にベーチェット病などの4疾患を対象に発足し、それ以降対象疾患は徐々に拡大され、現在は45疾患となっている。これらの疾患には、「脊髄小脳変性症」「パーキンソン病」「もやもや病」「スモン」「潰瘍性大腸炎」「ベーチェット病」「筋萎縮性側索硬化症」も含まれている。

「大阪の社会福祉」平成21年11月号より

特定疾病

特定疾病とは、40歳以上で65歳未満の第2号被保険者が要介護認定を受けて、要支援者や要介護者として介護保険サービスを利用する際の要件となる疾病のこと。これは、介護保険法施行令第2条で定められており、要介護状態等の原因である身体上および精神上の障害が、以下の16の疾病によることが要件とされる。

 それらの疾病とは、①がん末期、②関節リウマチ、③筋萎縮性側索硬化症、④後縦靭帯骨化症、⑤骨折を伴う骨粗鬆症、⑥初老期における認知症、⑦パーキンソン病関連疾患、⑧脊髄小脳変性症、⑨脊柱管狭窄症、⑩早老症、⑪多系統萎縮症、⑫糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症、⑬脳血管疾患、⑭閉塞性動脈硬化症、⑮慢性閉塞性肺疾患、⑯両側の膝関節または股関節に著しい変形をともなう変形性関節症、である。

 以上の特定疾病が原因で日常生活の自立が困難となり、要介護・要支援状態が6カ月以上にわたって続くことが予想される場合に、要支援・介護と認定されれば、介護サービスを利用できる。特定疾病に該当するか否かは、主治医意見書の記載内容に基づき、介護認定審査会が確認することになっている。(白)

「大阪の社会福祉」平成21年10月号より

な行

ナラティブ・モデル

ナラティブ・モデルは、人々の相互作用のなかでも、その物語性を重視する支援であり、クライエントこそが自らを最も知っていることを前提にし、本人が物語る(ナラティブ)内容にこそ、クライエントの本当の姿があるとの考え方を基礎にしている。

 ナラティブ・モデルは、当初は家族療法に取り入れられ、心理療法の新たな枠組みとして発展し、これが医学、看護学、臨床心理学などの幅広い臨床領域、さらには社会福祉援助においても活用されるようになってきた。

 そこには、クライエントの問題は援助者が診断することとしてきたことへの批判が根底にあり、クライエント自らが物語ることから、問題を外在化させることを狙いにしている。

 これを「物語としての自己」というが、クライエントは一般に自己を低く評価する「ドミナント・ストーリー」に支配されがちであるが、クライエントが支援者に語ることにより、別のストーリーである「オルタナティブ・ストーリー」に気づき、そこに自分の居場所を見つけることができることになるとされる。そのため、支援者はクライエントの「オルタナティブ・ストーリー」を広げていくよう支援することになる。

「大阪の社会福祉」平成18年8月号より

日常生活自立支援事業

平成19年4月、厚労省は「地域福祉権利擁護事業」や「福祉サービス利用援助事業」と呼ばれていた事業を、「日常生活自立支援事業」と名称変更した。

 日常生活自立支援事業は、福祉サービス利用者の権利や利益を保護し、住み慣れた地域での安心した暮らしの支援を目的にして作られたもの。具体的には、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などで判断能力が不十分な方に対して、生活支援員が福祉サービスや苦情解決制度の利用援助、住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約、住民票の届出などの行政手続に関する援助を実施する。そのため、預金の払い戻しや解約、預け入れの手続など、利用者の日常生活費の金銭管理をし、定期的な訪問により生活の変化を察知することになる。

 利用手続きとしては、利用希望者が市町村社協に申請すると、本事業の契約内容について利用希望者の判断し得る能力の有無が判定される。判断能力があるとした場合には、利用希望者の意向を確認し、援助内容や実施頻度などの「支援計画」を策定し、契約を締結。利用料の負担があるが、生活保護受給世帯の利用料は無料。

「大阪の社会福祉」平成23年3月号より

日本年金機構

社会保険庁は厚生労働省の外局として昭和37年に設立された。

 平成20年10月には、新たに設立された「全国健康保険協会(協会けんぽ)」に政府管掌健康保険が分離した。

 残りの国民年金・厚生年金保険については、平成22年1月に設立された非公務員型の民間法人「日本年金機構」が社会保険庁から引き継ぎ、社会保険庁は廃止となった。

 日本年金機構は、年金業務を国から委任・委託を受けることになる。

 権限の委任としては、資格の得喪の確認、滞納処分、届出・申請の受付、厚生年金の標準報酬額の決定、国民年金手帳の作成・交付などである。

 事務の委託としては、裁定、年金の給付、原簿への記録、ねんきん定期便の通知、納入の告知・催促などである。

 この機構は、本部、9カ所の地方ブロック、312カ所の年金事務所で構成される。

 今までの社会保険庁の年金記録問題をはじめとした不祥事に対応して、国民の信頼の確保を図ることが基本理念である。そのため、親切・迅速・正確で効率的なサービスの提供をめざし、1000人規模の民間会社経験者を採用し、組織ガバナンスを確立することをめざす。

「大阪の社会福祉」平成22年3月号より

ニューパブリックマネジメント

1980年代中頃のイギリスなどでの「小さな政府」をめざす新自由主義に基づく行政の管理運営(マネジメント)の考え方や手法のこと。民間セクターの経営理念や手法を行政部門に適用し、行政のマネジメント能力を高め、効率的で質の高い行政サービスの提供をめざす考え方である。行政の意識を、法令や予算の遵守にとどまらず、より効率的で質の高い行政サービスの提供へと向かわせることにある。ひいては、行政サービスの透明性や説明責任を高め、国民の満足度を向上させることにある。

 日本でのニューパブリックマネジメントは、鉄道、電話・通信、郵便などの民営化、公立大学や国立病院などの独立行政法人化にみられる。福祉・医療の領域では、介護保険の在宅サービスへの民間企業の参入などにその手法が取り入れられている。

 この考え方の基礎には、行政の役割を見直すことであり、基本的にできる限り民間に業務を委ねることとし、行政は企画立案、監督、環境整備に限定することを特徴にしている。市場メカニズムを基礎にして、競争や効率に力点が置かれ、成果や結果が重視されることになる。

 しかしながら、こうした考え方にもとづく公的サービスは、人々の間での所得面や健康面での格差を広げてきたとの指摘もある。

「大阪の社会福祉」平成20年4月号より

認知症

厚生労働省では、痴呆に対する誤解や偏見の解消を図る一環として、検討会を設け、「痴呆」に替わる用語を検討してきた。その結果、昨年の12月24日から、「痴呆」に替わり、「認知症」という用語を使うことになった。

 用語変更の背景としては、第一に、痴は「おろか」や「くるう」、呆は「ぼんやり」や「魂が抜けた」という意味があり、「痴呆」には軽蔑的な意味が強いことがある。第二に、認知症の人には感情やプライドが残っている人が多く、外界に対して強い不安を抱き、周りの対応によっては、焦燥感、喪失感、怒りを感じやすく、この用語が実態を正確に反映していないためである。これについては、1998年にオーストラリアの元政府高官であるクリステイ―ン・ブライデンが『私は誰になっていくのか』を出版したのを契機に、病気へのイメージが改められてきた。第三に、認知症について、特に早期であれば薬で進行の抑制や症状の改善が可能となってきたが、痴呆という表現が恐怖心や羞恥心を増すことで、早期発見・早期診断を遅らせているためである。

 行政用語としては「認知症」とすることになり、関係法令等を見直すことになっており、一般的な用語としても認知症を使うことを求めている。用語変更の根底には、認知症の人に対する尊厳がケアの基本であることを求めるものであるといえる。

「大阪の社会福祉」平成17年3月号より

認知症サポーター

認知症サポーターは、認知症について理解し、認知症の人やその家族を温かく見守り、支援する応援者のことで、認知症サポーター養成講座を受講した人。

 都道府県、市区町村などの自治体が、一般住民、学校、地元企業等を対象に認知症サポーター養成講座をおこなっている。また、全国規模の企業・団体などにおいての養成講座も進んでいる。さらには、小中学校での養成も全国的に推進されている。認知症サポーターの数は2009年に目標としていた100万人を超えた。

 認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを目的に、認知症について正しく理解し、認知症の人への接し方を学んだサポーターが、生活のさまざまな場面で、認知症の人およびその家族をサポートする制度である。受講者には認知症サポーターの証として、オレンジリングと呼ばれるブレスレッドが授与される。

 全国キャラバン・メイト連絡協議会は、自治体や企業・団体等との共催で認知症サポーター養成講座の講師を養成している。

 所定の研修を受講した者をキャラバン・メイトという名称の講師として登録してもらい、このキャラバン・メイトが自治体事務局等と協働して「認知症サポーター養成講座」を開催している。

「大阪の社会福祉」平成23年1月号より

認定子ども園

「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」が6月に成立し、そこで認定子ども園が保育と教育と子育て支援を一体的に提供する施設となった。

 厚生労働省と文部科学省の共管で、10月1日から施行され、都道府県が条例で定める基準に基づき、認定することになる。

 認定子ども園には、幼保連携型(幼稚園と保育所の両方の認可をとったもの)、幼稚園型、保育所型、地方裁量型(認可外施設)の4種類がある。

 利用者と施設の直接契約で入園するが、母子家庭や虐待防止など特別な支援が必要な家庭が排除されない公正な選考をすることになっている。

 ねらいは、2万3000人の都市部の待機児童を幼稚園で受け入れること、保育所で専業主婦家庭の子どもを受け入れること、0歳から2歳の家庭で育てている母親への子育てを支援することにある。

 これは、幼稚園と保育所の幼保一元化に向けてのステップであるといえる。

「大阪の社会福祉」平成18年9月号より

ネグレクト(放棄)

ネグレクト(放棄)は虐待(アビューズ)と一対で使われる場合が多く、親が児童に対して育児をしなかったり、養護者が要介護高齢者に対して介護や家事をおこなわないこと。ネグレクトは「無視をする」という意味であり、保護者などが子どもや高齢者・病人などに対して、必要な世話や配慮を怠ることを指す。

 「児童虐待防止法」では、ネグレクトは「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置」「保護者としての監護を著しく怠ること」をあげ、児童虐待のひとつとしている。「高齢者虐待防止法」では、「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置」をあげ、養護を著しく怠ること、本人に必要な医療・介護サービスを相応の理由なく制限し、使わせないこと、水分や食事を与えないこと、劣悪な環境で生活させることなどである。

 ネグレクトには、育児や介護ができない明確な理由がない積極的ネグレクトと、経済的理由や介護や育児の疲れといった理由から生じる消極的ネグレクトに分けられる。

 また、自宅で保護者や養護者によるもの以外に、施設でおこなわれるネグレクトもある。

 こうしたネグレクトに対しては、早期発見が重要であり、分離による安全の確保や、各種の保健・医療・介護サービスの提供、見守り活動などが求められる。

「大阪の社会福祉」平成21年5月号より

は行

発達障害者支援法

発達障害者支援法が超党派の議員立法でもって成立した。この法律による発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害などの脳の機能的障害によるもの。こうした障害者を早期に発見し、適切な診断・療育・教育と環境調整をおこなうことで、自立と社会参加に質することを目的としている。

 そのため、国や地方公共団体の責務を明らかにし、同時に国民が発達障害者に対する理解と社会経済活動への参加に協力する責務を示している。

 具体的な支援内容は、(1)早期発見、(2)早期の発達支援、(3)他の児童と共に生活することを通じての保育、(4)十分な教育支援、(5)就労の機会の確保、(6)地域での自立した生活支援、(7)権利擁護のための支援、(8)発達障害者の家族に対する支援、と明記されている。さらに、都道府県は相談支援、発達支援、就労支援などの業務を「発達障害者支援センター」でおこなうことができるとしている。

 この法律は、昨年12月3日に成立し、今年4月1日から施行される。知的障害をもたない自閉症などは法に規定されないため、今までは福祉の谷間となり施策が整備されていない現状で、発達障害者支援は喫緊の課題となっていた。

「大阪の社会福祉」平成17年1月号より

バリアフリー新法

平成6年に「ハートビル法」が制定され、デパートやホテル、学校などを特定建築物とし、建物の出入口、階段、トイレを高齢者、身体障害者などが円滑に利用できるようバリアフリー化を義務付けた。また、平成12年に「交通バリアフリー法」が制定され、駅、鉄道車両、バスなどの公共交通機関についてもバリアフリーにすることが義務化された。

 これら2つの法律を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が平成18年12月から施行されたが、これがバリアフリー新法である。

 この法律では、ハートビル法と交通バリアフリー法の内容を踏襲し、さらに以下の5つの内容が付け加えられた。①高齢者、身体障害者だけでなく、すべての障害者に対象を拡大すること②施設の範囲を道路、路外駐車場、都市公園まで広げ、生活空間におけるバリアフリー化を推進する③駅がない地区でも重点整備地区になることを可能にする④利用者の参加を促進するために、協議会を設置し、利用者が市町村に対して構想作成の提案を可能にする⑤段階的・継続的に発展させていくことと、国民の協力を求める心のバリアフリーを促進する。

「大阪の社会福祉」平成19年8月号より

バリデーション

バリデーションは、アメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・フェイルが開発した認知症高齢者とのコミュニケーション技術で、認知症高齢者の経験や感情を認め、共感する「共感的理解療法」といった意味である。

 バリデーションの原則は、認知症の人をありのままに受けいれることであり、認知症高齢者の行動障害である叫びや暴力・暴言、徘徊などは、その人なりの意味のある行為として受容することにある。この認知症高齢者を受けいれて共感する14の技法がある。

 それらは、「精神を集中する」、「真心をこめて、目と目を合わせる」、「本人の言ったことを繰り返す」、「はっきりした低い優しい声で話す」、「身体を触れる」、「極端な表現を使う」、「思い出話をする」、「音楽を使う」、「事実に基づいた言葉を使う」、「反対のことを想像する」、「あいまいな表現を使う」、「相手の動きや感情に合わせる」、「満たされていない欲求に目を向ける」、「好きな感覚を用いる」といった振る舞いである。

 バリデーションは認知症高齢者にみられる行動障害や不安定な感情の改善に有意義だとされており、アメリカ、スウェーデンなどで普及してきた。最近、日本でも、特別養護老人ホームや老人保健施設などで取り入れるところが出てきた。

「大阪の社会福祉」平成19年12月号より

日帰り介護

一般に「デイサービス」と総称されるサービスを、国立国語研究所の「外来語」委員会が「日帰り介護」という用語に言い換えすることの提案をおこなっている。この日帰り介護は、利用者に他者との関わりを増やしたり、入浴や食事の機会を確保するのと同時に、介護者に休息を与えることを目的としている。

 介護保険による主として65歳以上の者を対象にする場合と、支援費制度による障害者を対象者にする場合に分けられる。法的には、両者共に「通所介護」と呼ばれており、社会福祉法人、医療法人、株式会社などの営利企業、さらには特定非営利法人(NPO)などが実施している。

 また、両者共に、利用者が実施している業者を選ぶことができる契約制度になっている。

 両者間には相違があり、前者は保険制度での居宅介護サービスの一つであり、利用者は所得に関係なく介護報酬額の一割を一律自己負担することを原則としている。後者については、租税を財源としているため、利用者や家族の所得により自己負担額が異なることになっている。

「大阪の社会福祉」平成16年3月号より

ビハーラ

「ビハーラ」はインドの古語であるサンスクリット語であり、仏教教典などで、「僧院」、「寺院」といった他に、「休息や安らぎを与える場」といった意味がある。そのため、ビハーラ活動とは、寺院、病院、施設などにおいて、僧侶が病気や障害、高齢化に悩む人たちと苦しみに寄り添い、精神的・身体的な苦痛を和らげ、安心が得られるよう支援する活動のことである。

 仏教のこうした思想を背景にして、最近ではビハーラという用語により、仏教に基づく病院や施設でのターミナルケアを意味することが多い。ビハーラのターミナルケアとしては新潟県の長岡西病院が先駆的な実践をおこなってきたが、医師、看護師、ソーシャルワーカーなどに加えて、僧侶もメンバーに加わり、入院患者の悩みを聴き寄り添う役割を果たしている。そこでは、限りある生命の、その限りの短さを知らされた人が、静かに自身を見つめ、また見守られることを支援することになる。

 キリスト教でのホスピスは、中世におけるキリスト教の聖地巡礼にともなう休息や病を癒す宿泊施設であり、ここからヨーロッパで終末期のケアをおこなう施設としてホスピスが始まった。日本でもキリスト教系病院でホスピスが作られ、ここでは牧師が参加している。

 日本人の死生観はさまざまであるが、多様な死生観に基づくターミナルケアとして、ビハーラやホスピスも有効である。

「大阪の社会福祉」平成18年7月号より

フォーマルサービス

制度化されている社会資源のこと。これらは租税や保険財源をもとに実施される場合がほとんどであるが、企業などが独自で実施することもある。具体的には、保健医療サービス、福祉サービス、所得保障サービス、住宅サービス、教育サービス、雇用サービス、治安や安全に関するサービスなどがある。こうしたサービスには全国一律に実施されているものから、個々の市町村が独自で実施しているサービスに分かれる。後者については、配食サービスや緊急通報サービスなどが該当する。

 こうしたフォーマルサービスの実施主体は自治体である場合が多いが、時には民間企業や社会福祉法人が実施している場合もある。その運営は、行政が直接実施する場合よりも、社会福祉法人、医療法人、民間企業、NPOなどがおこなっている場合が多い。歴史的には、直接行政が実施することから、他の団体に運営が移行してきており、さらにその団体は多元的になり、競争原理が働くようになってきている。

 フォーマルサービスに対置するものとして、インフォーマルサポートがあり、両者でもって、個々の住民を支える社会資源が成り立つことになる。両者のうちで、フォーマルサービスの特徴は、安定した供給ができることや公正な提供にある。ケアマネジャーは、こうした特徴をいかし、利用者のニーズを満たすためにフォーマルサービスを活用する。

「大阪の社会福祉」平成17年8月号より

福祉医療機構

福祉医療機構は福祉の増進と医療の普及向上を目的にしている。社会福祉事業振興会(1954年設立)と医療金融公庫(1960年設立)が1985年に合併し、社会福祉・医療事業団が作られた。これが2003年4月に独立行政法人に移行し、「福祉医療機構」となった。

 この機構は、福祉医療の基盤整備を進めるため、社会福祉施設や医療施設の整備のための貸付事業、施設の安定経営をバックアップするための経営診断・指導事業、社会福祉を振興するための事業に対する助成事業、社会福祉施設職員の退職手当共済事業、障がいのある人の生活の安定を図るための心身障害者扶養保険事業、福祉保健医療情報を提供する事業(WAMネット)、年金受給者の生活支援のための資金融資事業などの多様な事業を実施している。

 さらに、高齢者、障がい者、児童領域で先駆的・独創的な事業をおこなうNPO法人やボランティア団体などの民間団体を支援するための助成事業をおこなっている。この事業への助成金は、政府からの出資金で造成された総額約2787億円の基金を運用し、その運用益を充当していた。行政刷新会議での仕分けの結果、今年度から基金を国庫に返納し、国が毎年度必要な予算措置を講じることで、事業をおこなっていくことになった。

「大阪の社会福祉」平成22年8月号より

福祉人材確保指針

「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」を略し、福祉人材確保指針と呼ぶ。

 この指針が昨年8月に見直された。この背景には、介護職員をここ10年間に40~60万人新たに必要とされているが、現状でも介護職員の確保が困難な状況が大都市を中心に生じていることが大きい。人材確保の方策として、①給与や介護報酬などによる労働環境の整備の推進②キャリアアップのしくみの構築③福祉・介護サービスの周知・理解④潜在的有資格者などの参入の促進⑤他分野に従事する者や高齢者などの参入の促進が示された。これらを進めるにあたり、経営者やその関係団体、国、地方自治体、国民の役割が示された。今後、福祉人材を具体的に確保していくため、国は定期的に評価・検証し、指針内容を見直し、福祉人材の確保を着実に推進していくとしている。

 平成4年6月に成立した「福祉人材確保法(社会福祉事業法および社会福祉施設職員退職手当共済法の一部を改正する法律)」で、福祉人材確保指針の作成が義務化され、これを受け、当時のゴールドプランやエンゼルプランを推進するための人材確保の立場から、平成5年4月に最初の指針が厚生省告示としてだされた。これが見直されたもの。

「大阪の社会福祉」平成20年9月号より

福祉多元主義

従来、福祉サービスは直接行政が利用者に供給する場合が多かったが、様々な供給主体が多元的に供給するという考え方。具体的には、行政だけでなく、社会福祉法人やNPOといった民間非営利組織、営利企業、さらには家族や近隣など、インフォーマル・セクターといった多様な供給主体が利用者にサービスを提供すること。このことを、「福祉ミックス」と呼ぶ場合もある。

 この福祉多元主義(welfare pluralism)の考え方は、イギリスのサッチャー政権下での議論やその推進のもとで、日本を含め国際的に広がってきた。

 この考え方は、営利企業が利用者を消費者として捉える市場供給主体として参入することで、利用者=消費者とする市場メカニズムを活用し、効率的なサービス提供をおこなうことを目的とするものである。

 一方、民間非営利組織やインフォーマル・セクターが参入することにより、硬直化・画一化・非即応化しているサービスの弊害を除去することをも目的にしている。この結果、行政の役割は多様な供給主体の参入機会を確保し、財源の確保、公的規制の実施、人材養成といった基盤を整備することであり、小さい政府を目指すことになる。

「大阪の社会福祉」平成16年4月号より

福祉補助金

福祉関連に支出される各種の国庫支出金を総称するものであり、国庫負担金、国庫委託金、国庫補助金がある。国庫負担金は生活保護費負担金といった国と地方自治体が共同責任をもつ事業に対して、国が義務的に負担するものであり、国庫委託金は国が地方自治体に委託して実施する事業であり、国が経費の全額を負担する。国庫補助金は在宅介護支援センター事業費等の国が地方自治体に奨励的に支出する補助金のことである。

 こうした補助金には、国がそれぞれ実施要項を定めており、補助基準や補助率が個別に決められている。そのため、地方自治体が独自で制度的に創意工夫してサービスを提供することが難しい仕組みとなっている。また、事業対象や単価を国が決めてしまうため、地方自治体がその枠を外せば、その差額を自主財源で賄わなければならないようになっている。

 そのため、現在「三位一体の改革」を進め、補助金を廃止し、それらを地方交付税交付金に移行することで、地方自治体が主体的に住民が必要とする福祉サービス等の制度化や運営を図っていくことが進められている。これらの動向は、地方分権化を促進するものである。

「大阪の社会福祉」平成16年2月号より

プロダクテイブ・エイジング

アメリカの医師であるバトラーなどが1985年に、高齢者の新しい見方として提案した用語。高齢者を社会の重荷として見るのではなく、社会を豊かにする存在として捉えることである。高齢者を画一的に弱い存在として捉え、排除してきた社会に対して、高齢者は社会を構成する一員であるとの考え方を訴えるために作られた用語である。

 プロダクテイブとは生産的という意味であるが、これは単に物を作るといったことではなく、前向きなり創造的といった意味で高齢者を捉えることである。日本語にすれば、生涯現役や創造的な高齢期といった意味合いである。

 高齢者は就労だけでなく、地域活動、ボランテイア活動、学習活動などをおこなっていたり、そうした活動の可能性をもっている。そうした可能性が実現できる社会システムを作ることで、高齢者や高齢社会を肯定的に捉えようとするものである。しかしながら、現実には、定年制度、高齢者が就労の場を確保することの困難さ、高齢者就労に対する非効率性といった社会的偏見が存在しており、社会システムの変革が求められている。他方、高齢者の地域などでの自主的な活動については制約が少なく、その側面ではプロダクテイブな生き方が可能であるといえる。

「大阪の社会福祉」平成20年5月号より

放課後児童クラブ

放課後児童クラブは、共働き家庭の子どもを学校の放課後預かり、小学校1年生から3年生20人を1クラス単位として実施している。従来からの学童保育のことである。昼間保護者のいない家庭の小学校低学年児童に対して、育成・指導・遊びなどでもって発達を助長することになっている。

 高度経済成長の時代に、多くの女性が働くようになり、「カギッ子」が社会問題となり、住民が自主的に学童保育を実施してきた。エンゼルプランでは学童保育施設の充実が示され、1998年の児童福祉法改正で、学童保育の促進が市町村の義務となり、国や都道府県の補助のもと、市町村事業として実施されつつある。

 現在、登録児童数が約41万6000人、約1万1000ヶ所の施設でおこなわれている。多くは学校の空き教室や児童館・児童センターなどでおこなわれている。ただ、市町村での進捗状況に差が大きく、個々の事業についても質的に差が大きいとされている。また、完全学校週5日制に伴い、土日祝日開設が求められているが、こうした事業の実施に対して、放課後児童健全育成事業として補助金を加算している。

「大阪の社会福祉」平成16年5月号より

包括払い方式

包括払い方式は、アメリカの医療制度において開発され、出来高払い方式に代わって普及してきたもの。出来高払いは、疾患の診断や治療に対し、保険で認められている行為や方法などのそれぞれに対して、診療費が支払われる方式である。一方、包括払い方式は、実際にかかった額に関わらず、一定の診断名や状態に対してのひとまとまりの医療行為に一定の診療費が支払われる方式である。これはDRG/PPSと呼ばれ、まず個々の病気の治療内容をグループ分けし(「診断別関連群」DiagnosisRelatedGroup)、それぞれの病気の治療費総額を決める方法(「包括払い方式」ProspectivePaymentSystem)である。

 こうした包括支払方式は、すでに日本の医療保険制度にも一部取り入れられているが、改正介護保険制度では、新予防給付の介護予防訪問介護や介護予防通所介護・通所リハビリの介護報酬にも初めて導入された。介護予防訪問介護では利用時間数に関わりなく、介護予防通所介護では利用回数に関わりなく、一月当たりの支払額は定額となった。この包括払い方式には、事業者がサービスの利用を抑制的に作用することの危険性があることが指摘されている。

「大阪の社会福祉」平成19年7月号より

保護観察官

保護観察官は、「更生保護法」第31条により、地方更生保護委員会事務局と保護観察所に置かれる国家公務員である。保護観察官は職名であり、官名は、法務事務官であり、行政職(一)の俸給表が適用される。

 保護観察官の業務は、犯罪をした人や非行のある少年に対して、社会復帰のために指導・監督をおこなう、刑務所などの外の「社会内処遇」の専門職である。同時に、犯罪や非行のない明るい社会を築くための「犯罪予防活動」の促進にも努めている。

 保護観察所に配置された保護観察官は、保護司と協働し、出所者の保護観察や、矯正施設に収容中の者の釈放後の帰住先の環境調整にあたる。また、更生保護にかかわる更生保護女性会や協力雇用主との連絡調整などもおこなう。

 地方更生保護委員会事務局に配置される保護観察官は、刑事施設からの仮釈放や少年院からの仮退院審理の準備調査などに従事している。

 近年、犯罪をした人や非行のある少年が抱える問題は多様化・複雑化する傾向にあり、保護観察官には高い専門性が求められている。同時に、社会復帰を円滑に進めるために、地域社会の関係諸機関とのネットワークを作っていく能力が求められている。現在、1000人程度の保護観察官がいる。

「大阪の社会福祉」平成21年12月号より

保護司

保護司は「保護司法」に基づき、法務大臣から委嘱される民間のボランティアで、無給であるが、法的には非常勤の国家公務員という位置づけになる。

 保護司は、民間人としての特性をいかし、保護観察官と協働して、更生保護の業務をおこなう。具体的には、以下の3つの業務がある。①犯罪や非行をした人に対して、更生を図るための約束ごと(遵守事項)を守るよう指導し、生活上の助言や就労の援助などをおこない、その立ち直りの支援をする(保護観察)。②少年院や刑務所に収容されている人が、釈放後に円滑に社会復帰を果たせるよう、釈放後の帰住先の調査、引受人との話合い、就職の確保などをおこない、必要な受入態勢を整える(環境調整)。③犯罪や非行を未然に防ぐために、世論の啓発や地域社会の浄化に努める(犯罪予防活動)。

 保護司は約4万9000人が委嘱されており、任期は2年で、再任も可能である。保護司は、保護観察所に置かれた保護司選考会が、社会的信望、職務に対する熱意、時間的な余裕などを条件にして、選定される。

 各保護観察所や地方更生保護委員会に対応して、それぞれ保護司会連合会や地方保護司連盟があり、さらに、全国では(社)全国保護司連盟が組織されている。

「大阪の社会福祉」平成22年1月号より

ホテルコスト

今回の介護保険制度の改正で、施設入所者に対して、食費と、光熱水費や減価償却費といった居住費を利用者が全額自己負担することになった。この自己負担する居住費のことを「ホテルコスト」と呼ぶ。

 介護保険では、在宅と施設のサービス利用者に分けられるが、前者では食費や光熱水費といった居住費を自分で負担しているが、後者では食費には介護保険で補助があり、光熱水費は無料となっていた。そのため、施設サービス利用者は自らの懐から出すお金が安く済むものとなっていた。

 この改正により、介護保険給付費を抑制するだけでなく、施設と在宅の利用者間での経費のバランスを保ち、介護保険利用者の在宅へのインセンティブを高めることを目指す。

 昨年の10月より介護保険施設と呼ばれる介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の入所(院)者から、食費と、光熱水費と減価償却費からなるホテルコストを徴収することになった。利用者の所得額や、個室か多床室の利用かで、自己負担額が異なる。低所得者については、高額介護サービス費制度の改正で利用者の支払額を低く抑えるよう配慮している。

 これにともない、通所系サービスや短期入所サービスについても、10月から食費の全額自己負担が同時に始まった。また、医療保険制度での病院のホテルコスト徴収へと考え方が広がってきている。

「大阪の社会福祉」平成18年2月号より

ま行

メタボリック・シンドローム

内臓の周りに脂肪がたまる内臓脂肪型肥満を共通の原因にして、高血圧、高脂血症、糖尿病などといった生活習慣病が起こってくる。その結果、動脈硬化の危険性が高くなり、心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなる。この内蔵脂肪型肥満、高血圧、高血糖、高脂血症の個々の診断値はそれぞれ深刻ではないが、基準値より悪い項目が複数ある状態をメタボリック・シンドローム(代謝症候群)と言う。この症状があると、脳梗塞や動脈硬化性疾患になるリスクが高くなる。

 生活習慣病の患者数が増加の一途をたどっており、WHO(世界保健機関)は1999年にメタボリック・シンドローム診断基準を出しているが、日本でも診断基準が出された。ここでは、腹部肥満(腹囲男性85㎝以上、女性90㎝以上)を基盤にして、血圧、空腹時血糖値、中性脂肪またはコレステロール値の基準値をいくつ上回るかの数であり、この数が増えるごとに、脳血管疾患、虚血性心疾患、糖尿病での人工透析や失明などの発症リスクが急激に高くなる。

 このメタボリック・シンドロームは不適切な食生活、運動不足、喫煙などで起こる。そのため、運動、食事、アルコール、喫煙、休養などの観点から、メタボリック・シンドロームを解消していくことが必要である。日本での今回の医療制度改正においても、メタボリック・シンドロームの解消を目的にしている。

「大阪の社会福祉」平成18年1月号より

モラルハザード

本来は保険制度での用語で、保険に加入していることで、故意や不注意で保険事故を起こしてしまう危険性をいった言葉だが、現在では広く人々が倫理観や道徳的節度がなくなり、社会的な責任を果たさないことを意味しており、「倫理崩壊」「倫理欠如」と訳されている。

 保険制度では、医療保険や介護保険制度の中で、定期の保険料不払いでのサービス利用や、故意に過重なサービス利用を図ることなどがこれに相当する。この用語は福祉や経済の領域で広く使われるようになった。福祉領域では、生活保護受給者での収入認定部分の申請を怠ったり、福祉サービス利用にあたり偽りの申請をすることもモラルハザードに相当する。結果、制度の隙をつき無料で公的サービスを利用する者のことを「フリーライダー」(ただ乗り)と言う。

 モラルハザードという用語は、さらに社会全体で現在起こっている倫理の崩壊状態についても使われており、倫理観がなくなった行為や態度についてもこの言葉が使われる。

「大阪の社会福祉」平成16年7月号より

や行

要保護児童対策地域協議会

児童の虐待や子育てに関する相談支援は、従来児童相談所を設置する都道府県や政令指定都市を中心におこなってきた。しかしながら、こうした支援には、利用者に身近な市町村の対応がより有効であるとのことから、平成16年の児童福祉法改正により、第10条で、市町村は利用者の相談に応じ必要な調査や指導をおこなうよう義務づけられた。 この改正にともない、同法第25条で、要保護児童などに関し関係者間で情報の交換と支援の協議をおこなう機関として「要保護児童対策地域協議会」を全市町村で速やかに設置することになった。

 この協議会は、市町村が設置主体となるが、ここでの協議内容としては、児童虐待や子育てについての情報交換や連携、児童虐待についての広報・啓発活動や研修事業、個別事例の進行管理などを実施することである。この協議会には、保育所、幼稚園、児童相談所、学校、児童養護施設、地域子育て支援センター、医療機関、警察、弁護士、民生児童委員などが参加することになる。

 要保護児童対策地域協議会が地域のネットワークとなることで、要保護児童の早期発見や適切な保護が図られ、関係機関が情報を共有し、連携のもとでの対応が可能になる。

「大阪の社会福祉」平成18年11月号より

ら行

リアリティ・オリエンテーション

リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練:RealityOrientation(RO))は、1968年フォルサムの提唱によるものである。これは、人、場所、時間などの見当識障害を有する中等度から重度の認知症高齢者に対して、基本的情報(氏名、場所、曜日、時間など)での見当識障害を解消するために訓練をおこない、現実認識を深めることを目的としている。職員が今いる場所や日付などの質問を繰り返すことで、対人関係・協調性を取り戻すことや、残存機能に働きかけることで認知能力を高め、認知症の進行を遅らせることを期待する療法である。

 リアリティ・オリエンテーションには、24時間リアリティ・オリエンテーションと、教室リアリテイ・オリエンテーションがある。前者は、認知症高齢者と職員との日常生活におけるコミュニケーションの中で、現実認識の機会を提供するものであり、後者は、少数の認知症高齢者を集め、職員の進行のもとで、決められたプログラムにそって、基本的情報が提供され訓練されることである。この際、誤りをしかるようなことはせず、ていねいに関わっていくことが重要である。

「大阪の社会福祉」平成19年10月号より

リプロダクティブ・ヘルス/ライツ

人権と性の視点から、妊娠・出産・避妊・性感染症・生殖器や生殖機能に関する疾病・性同一性障害などについて、男女の別なく、身体的、精神的、社会的により良い状態を保障することを「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」と言う。日本語では、「性と生殖に関する健康・権利」と訳される場合が多い。特に、ここには、女性については、自らの性と生殖について自己決定権を持ち、生涯にわたって健康を享受することができる権利を含んでいる。そのため、思春期の性教育、性感染症、性暴力、更年期障害などの女性のライフサイクルにおける健康や性について総合的な対策の推進を図る必要がある。1994年のカイロでの国際人口・開発会議で性と生殖に関する健康・権利が承認され、北京世界女性会議、女性2000年会議でも重要課題となった。日本でも、平成11年6月に公布・施行された「男女共同参画社会基本法」を受けて策定された「男女共同参画計画」では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの意識の浸透と生涯にわたる健康支援対策の推進が明記された。また、都道府県などが作成している「男女共同参画計画」にも同様の対策の推進が記述されている。

「大阪の社会福祉」平成16年10月号より

レジデンシャル・ケア

レジデンスとは「住処」であり、レジデンシャル・ケアは社会福祉の入所施設入所者に対するケア。これと対をなすのが、地域でケアする「コミュニティ・ケア」である。レジデンシャル・ケアは、高齢者では特別養護老人ホームや養護老人ホーム、身体障害者では更生・療護・授産施設、知的障害者での更生・授産施設、精神障害者では精神障害者社会復帰施設、児童での知的障害児施設、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、盲ろうあ児施設、生活保護施設などでおこなわれる。

 レジデンシャル・ケアは、一定の入所者に対応するリスクやケアなどに関するマニュアルと個別のケアプランのもとで実践される。ケアプランは入所者の自立の支援に向けて、入所者のアセスメントをもとに、個別のニーズを明らかにし、それらに対応する支援計画を作成・実施することである。介護保険制度や支援費制度のもとで始まった施設のケアプランは、これに相当する。

 このケアプラン作成・実施は、レジデンシャル・ケアの専門性を高めることになり、入所者の在宅復帰も可能となり、コミュニティ・ケアにつながっている。

「大阪の社会福祉」平成19年1月号より

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、大脳皮質にタンパク質からなるレビー小体が現れ、神経細胞を壊すことから生じる認知症。認知症の人の約2割を占め、男性の方が女性より約2倍程度多い。レビー小体とは、運動障害を主な症状とするパーキンソン病の人の中脳部分にたまった異常な構造物を指す言葉であるが、レビー小体型認知症の場合は、認知機能を司る大脳皮質に付着することから生じる。

 レビー小体型認知症の人の特徴として、比較的近い時期の記憶をとどめておくことが難しくなる物忘れ症状だけでなく、初期より幻覚、特に幻視が現れることが多い。これらの視覚性の認知障害は暗くなると現れやすい。夢に基づいて行動するレム睡眠行動障害や、パーキンソン病に似た歩行の障害や体の固さをともなう。また、自律神経障害として便秘や尿失禁が目立つ。早期発見・早期治療が重要とされている。

 この病気は1976年に小阪憲司医師が初めて症例報告をし、世界的に知られるようになった。その後1995年イギリスでおこなわれた第1回国際ワークショップにおいて、レビー小体型認知症という名称になった。

「大阪の社会福祉」平成22年10月号より

わ行

ワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランスとは、一般的に「仕事と私生活をバランスよく両立させること」をいう。1990年代初頭、アメリカで考え出された概念・取り組みで、イギリスでもブレア政権が「ワーク・ライフ・バランス・キャンペーン」を始めている。

 企業が従業員の仕事と私生活のバランスを保ち、より充実した社会生活を送れるよう支援するための制度の策定や運用を積極的におこなうことにより、生産性が向上するだけでなく、優秀な人材の確保につながり、経営的なメリットが大きい、という企業の経営戦略として取り組まれた制度。この結果、仕事と家庭を大切にしたいとする従業員の声に応えることで、企業の競争力を高め、企業の社会的責任(CSR:CorporateSocialResponsiblity)を果たすことにもなる。実際、欧米の企業ではこれにより生産性向上、優秀な人材の確保、モラルアップなどに成功してきた。

 日本でも、労働力人口が急速に減少していき、労働力が逼迫する可能性が高く、既に共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回っている。そのため、日本の企業でも、これが重要な企業の経営戦略としての課題になってきている。

「大阪の社会福祉」平成19年5月号より

ワークフェア(workfare)

ワークフェアとは、手当や保護費などを金銭給付する際に、その条件として就労か職能訓練プログラムに参加することを義務付ける考え方。WORK FOR WELFAREの合成語である。

 1969年にアメリカ大統領ニクソンが初めて使った用語であり、低所得のひとり親家族への手当に対して就労義務を導入した際に使われ、福祉の目的を就労の拡大におき、福祉サービスの受給条件として就労を求めるようになった。

 その後、イギリスやスウエーデンなどのヨーロッパでもワークフェアという用語が使われるようになった。それは、政府が失業者の就労のための職業訓練などに対して手厚い支援のもとで、失業者の労働能力の向上を支援することによって、就労場所を確保しようとすることである。両国のワークフェアには、就労を個人の責任と見るか、個人と社会の両者の責任と見るかの程度に違いがあるとされる。

 日本ではワークフェアという用語はあまり普及していないが、「自立支援」や「再チャレンジ」と類似である。最近の動向として、就労していないさまざまな人々に対するワークフェア施策が実施されている。平成16年の生活保護法改正により始まった「自立支援プログラム」は、その典型例である。

「大阪の社会福祉」平成20年8月号より

ワンストップサービス

 生活上での問題を有している相談者が相談機関に来所してきた際に、その機関ですべての問題を解決できること。

 そのためには、相談機関が総合的な問題把握ができ、必要なサービスに送致することになり、窓口職員に利用者の生活状況全体を把握する能力や、利用者が活用可能な社会資源についての知識などが必要になる。また、相談機関側なり利用者側に公的なサービスの利用を決定できる権限があることが不可欠となる。同時に、地域でのサービス提供機関間の連携が基礎として必要である。

 こうしたワンストップサービスが整備できれば、利用者に利便性を提供するだけでなく、サービスを知らない者やサービス利用方法を理解できない者に対しても、有効なサービス提供方法となる。さらには、このようなサービスを実施することで、施設から在宅への生活を円滑に移行できたり、現状での在宅生活の継続を支援することになる。

 介護保険制度での居宅介護支援事業所は、このワンストップサービスを目指して創設されたといえる。そのため、ケアマネジャーはワンストップサービスを担う者ということになる。

「大阪の社会福祉」平成17年10月号より

B

BPSD(行動心理学的症候群)

認知症の症候は、記憶障害や見当識障害といった中核症状と、妄想、徘徊、暴力といった周辺症状から成っている。従来、この周辺症状は「問題行動」と呼ばれていたが、認知症の者にとってはあえて問題ある行動をとっているわけではなく、そうせざるを得ない精神的な根拠があり行動していることや、その言葉が持つ差別的な響きから、使わなくなってきた。近年、国際老年精神医学会が中心となり、痴呆の周辺症状についてBPSD「行動心理学症候群」(BehavioralandPsychologicalSymptomsofDimentia)という用語を使うことを提唱してきた。ここでの「行動の異常」には攻撃性、大声、不穏、焦燥性興奮、徘徊、不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、暴言、弄便、つきまといなどがあり、「心理学的な症状」には幻覚、妄想、せん妄、不安、抑うつ、意欲障害などがある。一般に前者は患者の日常生活を観察することによって評価され、後者は面接によって診断されることになる。

 BPSDは認知症患者の60~90%がある時期に見られるが、その症状は個別性が高く、BPSDは患者の中核症状、生来の性格や生活歴、心理社会的要因が合わさって発生するとされている。BPSDは患者の生活の質を低下させるばかりでなく、重度のBPSDのコントロールはしばしば困難で、介護者や家族に大きな負担を強い、在宅生活の継続が困難となるきっかけになることが多い。そのため、BPSDが生じる個別的な背景を理解し、個々人に合わせた環境の整備や、介護者への在宅サービスの提供や接し方の指導が必要である。

「大阪の社会福祉」平成18年6月号より

I

ICF

世界保健機構(WHO)が、1980年に作った障害の考え方を2002年に変更した。この新しい障害の考え方は「国際生活機能分類 International Classification of Functioning Disablity and Health」と呼ばれ、その頭文字をとってICFと言う。

 ICFの考え方は、健康状態は「心身機能と構造」「活動」「参加」の3つが関連し合って生じているとしており、それら3つには個人因子と社会因子が影響しているとしている。

 他方、1980年の国際障害分類はICIDHとされ、障害は病気や変調から「機能障害」が生じ、その結果として「能力障害」が生じ、さらにそこから「社会的不利」が生じるとする、病気や変調が原因で障害が生じるとするものであった。ICFでは、「機能障害」を「心身機能と構造」、「能力障害」を「活動」、「社会的不利」を「参加」と従来批判されてきたネガティブな観点から捉えるのではなく、中立的な用語で捉えている。

 今回の変更での最大の特徴は、障害を従来の因果論的に捉えるのではなく、個人の心身状況と環境状況が相互に影響し合って生じるとしたことである。そのため、障害の捉え方を、ICIDHが「医学モデル」であるとすれば、ICFは「生活モデル」であるといえる。

「大阪の社会福祉」平成16年11月号より

M

MCI(軽度認知機能障害)

MCI(MildCognitiveImpairment)とは近年、認知症と正常の中間状態にあるものとして提唱され、「軽度認知機能障害」と訳される。明らかな記憶障害が認められるが、記憶以外の高次脳機能は保たれており、かつ日常生活にも支障が見られない状態の患者を指す。

 MCIの特徴としては、以下のような6つの状態を呈している。①周囲の者が気づく程度の記憶障害や自覚的な記憶障害の訴えがあり、家族によってそれが確認されている。②客観的な記憶障害の証拠がある。③一般的な認知機能は正常範囲であり、運転や家計などの日常生活能力は保たれている。④日常生活には問題がなく、記憶以外の全般的な認知機能は正常である。⑤認知症の診断基準にあてはまらない。⑥年齢に比し記憶力が低下している。

 こうしたMCI患者の多くは、アルツハイマー病へと移行していく者もみられるが、一種の正常な老化過程で捉えられる者もいる。そのため、今後MCIに関する研究が一層進むことで、アルツハイマー型認知症の早期発見・早期対応に貢献できることになる。

「大阪の社会福祉」平成19年2月号より

O

OJT

OJTとは「On the Job Training」の略称。業務遂行上必要な技術や能力を、職場内の上司が実際に作業をすることによって伝え、それをもとに職員が試行錯誤を繰り返しながら自らの技術、能力を身につけていくトレーニング方法をいう。担当業務の遂行能力を向上・成長させるためには、職場での経験を積みながらトレーニングをしていくことが効果的であるとされる。

 一方OJTと対をなすのがOff―JTである。これは「Off the Job Training」の略称で、職場外での研修などによる技術や業務遂行に関わる能力のトレーニングを指す。Off―JTでは職場から離れ、外部の講師などからトレーニングを受ける。ここでのトレーニングは、実務的なものというよりも、一般化された技能や知識についての教育が中心になる。

 OJTとOff―JTは職員の研修は両方とも必要不可決であり、両者は補完的な関係にある。介護職の離職が大きな課題になっているが、職場でのOJTや職場外でのOff―JTの実施が定着率を高めていく1つの要因であるとされている。そのため、福祉現場では両者のトレーニングを充実させていくことが求められている。

「大阪の社会福祉」平成23年2月号より