2021.03.15

【特集】当事者・家族にとっての「つながり」と向き合う 1⃣ひきこもり等の支援について考える 社協職員座談会レポート


※本記事は大阪市社会福祉協議会ホームページの過去の掲載記事を転載しています。情報は記事掲載時点のものであること、また、リンク設定が一部無効となっている場合があることをご了承ください。

ひきこもりや不登校、発達障がいなど、地域には様々な社会課題があり、その多くは潜在化しています。しかし、当事者やその世帯への関わりの難しさ、つながりにくさ等から、支援が円滑に進まないことも多くあります。また、居場所づくりへと一足飛びに展開が進みにくく、すでに用意されている居場所になじまない人がいることも事実です。そこで今回、「ひきこもり等の支援」をテーマにした座談会を開催し、社協として、この課題に向ける視点、立ち位置を整理し共有しました。


―まず、各区社協での取組みを教えてください。

港区社協・荻野
「見守り相談室と生活困窮者自立相談窓口の職員が、ケースで関わった人に声をかけて、月1回の『居場所づくり会議』をしています。ここでは、当事者が当事者のために『どんな居場所がいいんだろう』と考える、その場が居場所になっているという取組みです。10~70代ぐらいまで、幅広い年代の方が参加されています。」

港区社協・田中
「ボランティア・市民活動センター担当としては、不登校のこどもや親を支援するボランティアグループの後方支援をおこなっています。」

淀川区社協・青野
「『ゆっくりくるり』という居場所を、年4回開催企画しています。ここには、制度の狭間で生きづらさを感じている65歳以下の方が集まっています。居場所をはじめたきっかけは、見守り相談室とボランティア・市民活動センターとの話し合いで、支援が必要な方の居場所がないという悩みからでした。また、ケース会議などで当事者との関わりのある関係機関の方にも参加してもらい、関係を深めてもらいたいという思いがありました。他施設で活動が難しい、サポートが必要なボランティアの方には特技を活かし、ピアノ演奏や調理をしていただきました。また、参加者には、自分のことや得意なことを伝える場を持ちました。」

平野区社協・尾方
「月に1度、第2土曜日の午前に『不登校・ひきこもり親の会』、午後に『発達障がいについて話し合う会』をしています。前者は、就学中のこどもの親と、成人のひきこもり状態の人の親と、2つのグループに分かれて話し合いの場を持っています。後者は、幅広い当事者の家族と、当事者本人も参加されます。いずれも2014年頃から継続していて、私は2019年に入職した時から担当しています。『発達の遅れ』『進学・就職』『親とのコミュニケーション』などテーマを決め、進行役を務める『サポーター』のもと、当事者・家族同士で話し合います。区外、市外・府外からの参加も多く、しかも、毎回新しい方が来てくださるので、こういう場が必要とされているのを感じます。」


―居場所づくりで大切にしていることは?

港区社協・荻野
「居場所づくり会議は、参加者が企画メンバーとして、何をやりたいか話し合うことを大切にしています。社協の駐車場にある花壇の一角を『畑』にして、豆やいちごを作ったりしていますが、畑はあえて屋上等に作らず、活動や収穫物が人の目につきやすく、職員も声がかけやすく、本人たちが自由に出入りしやすい場所にしました。」

淀川区社協・青野
「私たちは、一人ひとりの居心地を第一に考えています。人と関わるのが苦手な方も多いので、支援者が隣に座ることやみんなと離れて座れるスペースも作りました。ボランティアの希望者の中には、精神疾患などでサポートがないと活動が難しい方がいますが、『ゆっくりくるり』でいきいきとした表情で活動したいただいています。」

平野区社協・尾方
「港区や淀川区とはまた違って、問題を解決する場ではなく、参加者の悩みを共有するのが目的と捉えています。児童デイサービスの職員やピアサポーター、元参加者の方が『サポーター』として会を進行してくださるので、参加者は悩みを話すことに集中してもらえるかなと思っています。」


―参加者の様子はどうですか?

平野区社協・尾方
「親の会に初めて参加された方が最初、『聴くだけでいいですか』と不安そうにおっしゃっていましたが、終了後には『次回から話ができそうです』という言葉を残して帰られました。みなさん積極的に、自分のことや今の状況を話している、その雰囲気がよかったのかもしれません。」

淀川区社協・青野
「職員も含めてニックネームで呼び合ったり、一緒に食事をしたりすることで、参加者とのフラットな関係ができました。精神病院退院後の日常生活のことを話す人もいれば、得意なイラストを持ってくる人もいます。支援する・されるの壁を取り払うことで、当事者の強みや人間性をみせてもらった気がしました。」

港区社協・荻野
「外に出ることが苦手だった方が、定期的に社協に来所して私たちの仕事の手伝いをしてくれるようになったり、他人との関りを拒んでいた人が、今ではいるのが当たり前になり…参加者の変化には感動します。」

港区社協・田中
「これまでの支援者以外に、ボランティアや地域の方、他の参加者との出会いの中でおきる『化学反応』を実感しています。それと同時に、本人の『エリア』が広がっていると感じています。」


―場の運営は、誰とどんな風にしていますか?

淀川区社協・青木
「これまで区社協では部門ごとの動きが中心でしたが、ゆっくりくるりをやっていく中で、部署を超えて一緒につくりあげることができました。ひとり思っているだけではできないことが形になっ特定のテーマでの居場所を作っても、実際に参加してほしい人に参加してもらえないことがあります。不登校のこどもを支援するボランティアグループについていえば、子ども食堂などの居場所が増えている中で、『身近なところに集える場があればいいね』と、メンバーからの声もあります。それぞれの思いをすり合わせられるような、調整役になれたらと思います。て、それはとても楽しいし、嬉しかったですね。」

港区社協・田中
「ボランティアグループの運営支援では、みんなの思いの共有と個々の想いを常々確認し、すり合わせながら進めていくことを大切にしています。」

港区社協・荻野
「ボランティア担当と相談しながら、ボランティアセンターで実施している『折り紙教室』『カフェ』『バルーン教室』などの居場所につなげることと、新たに『その人たちのための場所』をつくることで、本人が取捨選択でき、さらにそこから先の広がりを意識しながら進めています。」

平野区社協・尾方
「サポーターの人たちが会を応援してくださり、区社協と一緒に会について考えてくれたり、運営を支えてくれたりしています。コロナ禍で昨年3~5月は中止しましたが、再開についてもサポーターさんに相談できて心強いです。」


―みなさん自身の役割、立ち位置をどう考えますか?

平野区社協・尾方
「私の役割は、事務局として、話し合いの場を継続することに尽きます。」

淀川区社協・青木
「今日、とくに港区の話を聞いて、職員としての視点も持ちつつ、自分自身も一人の人として参加者と一緒に楽しみながら企画を考えられたらいいなと思いました。職員だけで固めて、意見を出すことがないようにしたいですね。」

港区社協・田中
「場に関わる一人ひとりの考えが違う場合は、話を聞いて、道筋を立てる役割をすることで前に進むことができます。その意味では『交通整理』役だと思っています。また、参加者同士、他機関との『調整』役も社協の役割だと考えています。」


―これからの方向性は?

平野区社協・尾方
「やっていく中で、悩みを持っている方が潜在化していることが分かりました。新しいことをするより、今なお潜在化している人につながるよう続けていきたいです。」

淀川区社協・青野
「参加する当事者の主体性を引き出し、今後は、『自分たちのゆっくりくるり』だと思ってもらえるようになれば理想的です。私たちは徐々に後ろへ下がっていきたいですね。それと、参加者の本音は、わかりあえる友だちが欲しいのではないかと思います。ある時、参加者のひとりが『友だちとユニバに行きたい』とつぶやいたことが印象深くて…。参加者同士の関係性が生まれる居場所にしていこうと思っています。」

港区社協・田中
「区にひとつ、特定のテーマでの居場所を作っても、実際に参加してほしい人に参加してもらえないことがあります。不登校のこどもを支援するボランティアグループについていえば、子ども食堂などの居場所が増えている中で、『身近なところに集える場があればいいね』と、メンバーからの声もあります。それぞれの思いをすり合わせられるような、調整役になれたらと思います。」

 

 


本記事は、「大阪の社会福祉」第789号(令和3年2月発行)の掲載記事をもとに作成しています。

(担当:地域福祉課)