2025.09.08

認知症になっても自分らしく活躍できる場 ~みんなが主役「KY食堂」~

 住之江区にある西尾レントオール咲州R&D国際交流センターでは、地域に根付いた施設として、地域住民や支援者など誰でも活用できるシェアカフェスペース「N-LOUNGE」を設置しており、ここでは「産官学民交流」を1つの軸として、カフェなど開業へのトライアル出店に向けた場を提供し、スタートアップの支援がおこなわれ、複数の店舗が毎日日替わりで出店しています。
 今回、毎週月曜日を担当している「KY食堂」の店長を務めているユミちゃんと、認知症の当事者であり、一緒に働いているクミちゃんに活動の経緯や魅力などをインタビューしました。

▲クミちゃん(左)と認知症地域支援コーディネーターの杉井由美子さん(右)

気軽に立ち寄れ、安心できるみんなの居場所
 KY食堂は、午前11時30分~午後3時30分まで営業しています。店名の「KY」の由来は、店長のユミ(Yumi)ちゃんと、認知症の当事者であり、一緒に働いているクミ(Kumi)ちゃんの名前の頭文字をとって名付けられています。
 また、「(K)こだわらない・(Y)ゆっくり」をコンセプトに、来てくれた人やその場にいるみなさんがゆっくり、心地よく、話したいことを話せる場になることをめざしています。店長のユミちゃんがお店を切り盛りし、クミちゃんは来店した方々と会話を楽しみながら、料理の盛り付けや配膳、お皿洗いなどを担当しています。そして、※1認知症サポーター養成講座のステップアップ研修を受講した※2オレンジサポーターの方々がクミちゃんをサポートしています。
 店長のユミちゃんは、「クミちゃんが楽しく、無理なく続けられるようにということを第一に、誰もが作業できるような方法を考えています。クミちゃんやオレンジサポーターのみなさんの協力があって続けることができています。このような活動や取組みがあることで、認知症になっても地域で暮らすことの選択肢が増えてほしいです」と語りました。
 クミちゃんは、「少しずつ慣れ、たくさんの仲間ができて楽しいです。もともと食べることが大好きなので、毎週月曜日が楽しみです。最近は親子連れが来てくれることも増えて、うれしいです」と話しました。

▲役割分担して、全員で協力して活動

 

顔の見える関係から生まれる多様なつながりの輪
 店舗開業は、咲州 さきしま地域で働く人や団体、企業が気軽に情報発信や共有、交流できる場として開催されている「サキシマmeets」において、クミちゃんのご家族と、普段は障がい者の支援団体職員であるユミちゃん、同団体で広報を担当している菊池仁さんが出会い、クミちゃんが食べることや料理が好きということを知って、「じゃあ一緒にやってみる?おもしろいことをやろう!」と声をかけたことがきっかけでした。
 オープンに向けて具体的に形にしていくにあたり、菊池さんから、認知症地域支援コーディネーター兼認知症地域支援推進員(住之江区認知症強化型地域包括支援センター)の杉井由美子さん、住之江区社協の楊裕成ようひろなり第2層生活支援コーディネーターに声をかけ、活動内容について話し合う機会をつくりました。
 菊池さんは、「サキシマmeetsでの杉井さんとの出会いを機に、認知症地域支援コーディネーターやオレンジサポーターを知りました。また、KY食堂をより多くの地域の人に知ってもらうためには、地域のことをよく知っている区社協の楊さんに相談しようと思いました。いろいろな人を巻き込みながら、つながりの輪が広がっていきました」と話しました。
 また、続けて菊池さんは、「KY食堂の特徴は雑談が多いことです。誰しも初めから困りごとを話すことは躊躇うけど、何かやらないといけない、話さないといけない、と気負わずに雑談でもいいので話しに来てほしいです。雑談から困りごとを聞ける場になればと思っています」と活動に対する思いを語りました。

▲左から、区社協の楊第2層生活支援コーディネーター、障がい者支援団体の菊池さん、認知症地域支援コーディネーターの杉井さん、クミちゃん

認知症を気軽に学べる場所に
 KY食堂では、認知症について学べる場にもなるよう、毎月認知症サポーター養成講座が開催されており、この日は、オレンジサポーターとしてクミちゃんをサポートしている竹内周次しゅうじさんが※3キャラバン・メイトとして講師を担当し、16人の地域住民の参加がありました。そして、講座終了後の座談会には、クミちゃんが認知症の当事者として参加し、交流しました。
 杉井さんは、「KY食堂に来られた方と雑談をしていると、認知症について困っていてもなかなか相談機関に相談できず、専門的なサポートにつながっていない人が多いことを知りました。それならば、KY食堂を認知症の正しい知識を学べる場にしようと考えたことがきっかけで、現在では毎月講座を開催しています」と話しました。
 続けて、杉井さんは、「住之江区にオレンジサポーターの活動場所が少ないことを課題に感じていました。しかし、認知症があるかどうかは関係なく、誰もが活躍できる場ややりたいことができる場が増えれば、自然とオレンジサポーターの活動の機会も増えるのではないかと考えています」と語りました。
クミちゃんが楽しそうに活動する姿が雰囲気を明るくする
 キャラバン・メイトを担当した竹内さんは、「母を介護した経験を活かし、地域をよくしたい、みんなが暮らしやすい地域にしたいという思いで活動しています。認知症サポーター養成講座後の座談会ではクミちゃんにも参加してもらっていますが、クミちゃんが楽しそうに活動している様子は、受講者のみなさんの表情を明るくしてくれます」とメッセージを送りました。
 受講者からは、「気軽に学ぶことができました。こういう場所をこれからも続けてほしいです」「クミちゃんに会うことを楽しみに、KY食堂にも来ています」などの感想がありました。

▲認知症サポーター養成講座後の座談会の様子

雑談からヒントを得て活動につなげる
 KY食堂の活動を一緒に考えている区社協の楊第2層生活支援コーディネーターは、「日常の困りごとや助けてほしいことも雑談だからこそ人に話せることがあります。距離があると感じる異業種でも、互いについて知り、理解することでつながることができます。生活支援コーディネーターとして、既成概念にとらわれず、人と人や、人と企業等さまざまなつながりをつくっていきたいです」と今後の展望を話しました。
※1 認知症サポーター養成講座・・・認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守り、自分のできる範囲で手助けする応援者(認知症サポーター)を養成する講座
※2 オレンジサポーター・・・認知症の人やその家族を中心に、地域でともに支え合う取組みをおこなうボランティア活動者
※3 キャラバン・メイト・・・認知症サポーター養成講座の講師役を務めるボランティア
※本記事は、広報誌「大阪の社会福祉」令和7年7月号掲載記事に基づき作成しています。
 お問い合せ:大阪市住之江区社会福祉協議会