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【特集】 こころの叫びを受けとめて 自殺予防週間(9月10日~16日) ②

毎年、9月10日~16日は「自殺予防週間」です。自殺はなぜ起きてしまうのか。尊い命を自ら断つ自殺という行為は、悲しく、残念で、できるならば避けたいことです。自殺は、さまざまな要因が複雑に関係し、心理的に追い込まれた末に至る死であるものの、個人の問題として捉えるだでなく、時代の情勢や周りの環境の変化によって起こってくる社会的な問題でもあります。

今回は「死にたい」人の心の叫びをうけとめる電話相談事業をおこなう団体に、相談電話の現状や、「死にたい」という人との向き合い方についてお話をうかがいました。

※本記事では、1970年代初頭のほぼ同時期に設立され、以来、半世紀にわたり、ボランティアによる電話相談を実施している2団体の取組みを紹介します。


励ます言葉より、「絶望感」に耳を傾けて

認定NPO法人 国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター
06-6260-4343(金曜13時~日曜22時)
・励ます言葉より、「絶望感」に耳を傾けて「友達になる(be friend)」=「寄り添い・支える存在になる」が基本姿勢。
・電話相談は月に約400件。月2回「自死遺族のつどい」を開催。

▲理事長 北條 達人さん

コロナ禍初期の一体感は幻想?!

新型コロナの感染に対する相談が増えていますが、今年の自殺者数は、例年よりも減少しています。理由のひとつとして考えられるのは、災害などで社会全体が落ち込んだときに生まれるある種の一体感かもしれません。心理学用語で「ハネムーン期」といいます。東日本大震災でも、起きた直後は自殺者数が減ったものの、立ち直るスピードに格差が生じ、一体感だと思っていた社会がそうでなかったことに気づく「幻滅期」に突入します。こうなると、自殺者の数が一気にあがっています。コロナ問題もこの先、幻滅期を迎え、自殺者数が増えるかもしれないので、しっかりと見守っていかなかればなりません。

〝人生物語の喪失〟に耳をかたむける

多くの悩みの根底には、その人が描いていた“人生物語”の喪失があると考えています。こどもの頃、学生時代、就職や結婚…幸せなはずの人生物語が崩れてから、何もかもうまくいかなくなった。本人も周りもそのことに気づかず、崩れた人生物語がそのまま放置され「なぜ苦しいかわからない」けれど絶望している状態がずっと続いているのです。人生物語の立て直しをするには、安易な励ましでなく、「絶望感」にしっかりと寄り添い耳を傾け、絶望的な状態を「それでも生きていていいんだ」と思えるように肯定することです。

自殺を回避するには何が必要?

人生物語が喪失し「死にたい」と思った人が、自分の人生物語を作り直すには何が必要でしょうか。その人の気持ちを受け止め、その人が「もう少し生きてみよう」と思える気持ちの転換点まで並走してくれる人です。それは、身近な人でも、顔は見えないけれど接点をもった人でもかまいません。自殺を考えている人は、自暴自棄で無感動、心が動かなくなっています。そんな状態でも、1日1日をなんとかつないで、1カ月先、半年先には、無感動と思っていた社会のなかに自分の心とつながる接点が生まれたら、命を絶たずにすむかもしれないのです。私たちは、相談者の「生きてみよう」を信じて、これからも関わり続けていきます。

▲「心に傘を」という言葉を胸に、友となり、苦しむ人のそばにいることをめざして、孤独や絶望を感じている方々の心に寄り添いたいとの思いで活動していることを知っていただくために駅構内等でポスターを掲示するなどのプロジェクトを展開しています


ありのままに、その人をまるごと受け容れる

社会福祉法人 関西いのちの電話

・ありのままに、その人をまるごと受け容れる自殺予防をはじめとして、さまざまな心の悩みに向き合い、24時間、年中無休、相談員が交代で電話相談に対応している。相談員数は、現在320人。

▲常務理事 八尾 和彦さん

変化していくコロナ禍の悩み

今年、新型コロナウイルス関連の悩み相談は、3月から5月の2ヵ月間で10倍に増えました。最初は、死と隣り合わせであることの恐怖感や精神疾患の悪化の訴えが大半でしたが、時が経つにつれ、生活の不安、経済的な問題、家族内の問題など、その人が長年抱えている課題が表面化してきたように思われます。

私ども相談員も、コロナ感染に不安、恐怖を覚え、活動を続けるべきか中断すべきか、絶えず葛藤を覚えながら活動を続けてきました。4月は実働の延べ相談員数が前月の6割に落ち込みましたが、ボランティア相談員の意思によって、24時間体制を何とか維持することができたと思っています。6月に入ってからはほぼ平常に戻ってきたようですが、コロナを巡ってこれからも緊張感は続きます。

「生きたい」からこそ訴える

総受信件数の内、「自殺」を訴えてくる件数は約15%。電話口で「死にたい」と言われたら「ご家族が悲しみますよ」などと意見するのではなく、自分の基準や価値観は横において、「死にたいと思うほど、辛い思いをしていらっしゃるのですね」とその人の気持ちに寄り添います。「生きたい」という気持ちがあるからこそ悩み、電話をしてこられます。「死にたい」けれど実は「生きたい」という思いの中にある人をそのままに受け容れるように努めています。

より良い聴き手になるため、毎月、グループ研修を実施しています。相談員にとっては、相談活動と研修は車の両輪のようなもの。そして、この二つのことをとおして、何歳になっても絶えず「心の成長」があり、普段の生活の中でも、傾聴・受容のできる人になることをめざしています。

悩みが塊になってうつを引き起こす

自殺は、孤独、喪失、絶望、その3つが重なると起きると言われています。私たちにできることは、その人が孤独に陥らないよう、いつでもどこからでも匿名で相談できるチャンネルがたくさんあることを知らせることです。話すことで気持ちが少しは整理されたり、落ち着きを取り戻すことは確かにあります。しっかりと受けとめることで、心の重荷がとれて、明日に向かって少しでも生きる力が回復されるように支えていくことが私たちの役割です。

自殺に至る原因は、単純ではありません。いろんな悩みが連なって大きな塊になってくることでうつ状態が生じ、しだいに視野が狭くなり、自殺しか見えなくなってしまうケースがあります。何か思い悩んだり、壁にぶつかったり、苦しい思いをしたりしたら、悩みが塊になる前にとにかく電話をしてほしいと願っています。


【取材をとおして】

ありのままで生きられる地域に

取材をとおして、自殺の要因のひとつである孤立を防ぐために「人とのつながり」がいかに重要であるかを改めて感じました。同時に「死にたいほどつらい」と安心して言えるには、相談ボランティアがそうであるように、私たちも、ひとりの人間を理解するための深い共感力を養わなければならないと感じました。誰もがありのままの自分に納得しながら生きられる人生を地域の中でどう作っていくか、一人ひとりが考えていくことが大切であると思います。

▲両団体とも事業を続けていくうえで、人材不 足の状況で、毎年、以上のとおり、養成講座を 実施しています。

▲相談ボランティア養成講座(大阪自殺防止センター)

▲相談ボランティア養成講座(関西いのちの電話)

 

※この特集は第1弾と第2弾の2部構成です。第1弾へは下記よりご覧いただけます。

第1弾:【特集】 こころの叫びを受けとめて 自殺予防週間(9月10日~16日)


本記事は、「大阪の社会福祉」第783号(令和2年8月発行)の掲載記事をもとに作成しています。

(担当:地域福祉課)

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